目指したのは、“経理部だけ”で完結するシステム運用
システムの刷新にあたり、経理部がぶつかった壁がセキュリティだ。「当初検討していたシステムはあったのですが、社内稟議の際にセキュリティ要件を満たせず、導入できませんでした」と浅野氏。この状況下で浮上したのが、既に法人カードとして導入実績のあったLayerXが提供するバックオフィス業務自動化AIシステム「バクラク」であった。オリエンタルモーターの高いセキュリティ基準を満たせるだけでなく、法人カード「バクラクビジネスカード」の利用を通じてAI-OCRの精度の高さが経理部内で既に評価されていたという。
しかしながら、ここでもう一つの壁にあたる。当時はまだ、経費精算システムの運用に不可欠な外貨対応、仮払いといった機能が搭載されていなかった。
一度は導入を諦めたものの、「外貨の実務はどうなっているか教えてほしい」とLayerXから打診があり、情報交換を実施。そうすると瞬く間に外貨対応がなされたという。「気がついたときには外貨対応機能がリリースされており、そのスピード感には本当に驚きました」と秋元氏。このスピード感は同社の強みだとする。
また、バクラクの導入に踏み切った理由の一つとして、「メンテナンスをシステム部門に任せるのではなく、経理部門がノーコードで完結できる点も魅力的でした」と浅野氏は話す。情報システム部門が関与せずとも経理部主導でワークフローや組織データを柔軟に変更できる設計は、組織変更が頻繁に行われる同社にとって、持続可能なシステム運用の絶対条件だった。実際、契約からわずか半年で新システムを立ち上げている。
AIが導く「チェック不要」の未来 新システムが経理DXのエンジンに
2025年4月の契約から半年、同社は全拠点へのバクラク導入を完了した。特筆すべきは、本社主導のトップダウンではなく、各拠点の意見を吸い上げるボトムアップ形式で導入を進めた点である。同年9月に実施した先行導入では、最も煩雑な処理を抱える部署をあえて選定することで、課題を徹底的にあぶり出した。その成果は、AI-OCRの精度という形で如実に現れている。
秋元氏は、海外からのインボイス処理における変化について、「海外特有の手書き文字など、現場担当者が迷うような項目をAIが正確に読み取ったときは、まさに衝撃的でした。目視による確認が大幅に減り、精神的な余裕も生まれました」と強調する。浅野氏も「これまで繫忙期には残業することもありましたが、システム刷新後は定時内で業務が終わるようになりました」と効果を実感していると話す。
また、このシステム刷新は、長年続いていた“現金手渡し文化”の廃止という大きな転換をもたらしたと亀井氏は語る。
「『現金でなければ嫌だ』という声もありましたが、スマートフォンのアプリ上で手軽に申請できる利便性なども後押しし、納得感をもった形で銀行振込に切り替えていただけました。特に若い世代からは、QRコードによるキャッシュレス決済対応を進めてほしいなど、前向きな声も上がっています」(亀井氏)
今回、オリエンタルモーターの経理部が挑んだ経費精算システムの刷新は、今後の経理DXを推進する上での起爆剤にもなったようだ。秋元氏は、「近い将来、各拠点に経理の専門担当者を置くことは難しくなるでしょう。だからこそ、今のうちにデジタルで業務を標準化し、AIによる自動チェックを突き詰めることで『チェックそのものが不要な世界』を目指していきます。経理の知識がなくとも正確に業務が回る、そんな組織へと進化させたいと考えています」と語る。
長らく紙文化が浸透していた環境であっても、セキュリティという土台を固めながら、現場に寄り添うアプローチをとれば、経理部主導のDXを進められる。紙からデータへと切り替えていき、全拠点のデータも誰でも処理できる体制が整えば、現場負担となっている支払い漏れなどを防ぐことも容易になっていく。オリエンタルモーターの経理部による挑戦は、まだ始まったばかりだ。

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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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