なぜ今「データ主権」が企業IT選定の基準に? SUSE CEOが語る「3つの自由」とVMware問題の現実解
SUSE CEO ダーク-ピーター(DP)・ヴァン・ルーウェン氏インタビュー
Enterprise Linuxの市場が急拡大している。AI投資の加速、ハイブリッドクラウドへの回帰、そしてデータ主権への関心の高まりが重なり、基盤インフラへの注目度はかつてないほど高い。1992年にドイツ・ニュルンベルクで創業したSUSEは、オープンソースのエンタープライズLinuxを核に、コンテナ管理、エッジ、AIインフラまでをカバーする包括的なポートフォリオを持つ。本社をルクセンブルクに置く純粋なヨーロッパ系ベンダーとして、地政学リスクが高まる今、その存在感が増している。来日したSUSEのCEO、ダーク-ピーター(DP)・ヴァン・ルーウェン氏(以下、DP氏)らに、市場の現状と戦略を聞いた。
Enterprise Linuxは「インフラのデフォルトOS」になりつつある
エンタープライズLinux市場がなぜ今これほど拡大しているのか。DP氏の答えはシンプルだ。「オンプレミスでも、クラウドでも、AI環境でも、新しいものが出るたびにインフラが必要になる。Enterprise Linuxは、インフラのデフォルトOSになりつつある」。
エンタープライズ各社のAI・クラウド戦略を見ると、インフラのレイヤーからミドルウェア、アプリケーション開発まで、複合的なマルチスタック構成を持つ企業が非常に多い。オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッド環境が標準となり、さらにマルチクラウドという観点も加わる。既存のレガシーインフラを抱えながら新しい環境へと移行していく——こうしたフェーズで、Linux基盤が必要とされる。
SUSEのポートフォリオはこうした複雑な現実に対応すべく構成されている。Linux基盤の「SUSE Linux Enterprise(SLE)」に加え、マルチベンダー・マルチバージョンのLinux環境を一元管理する「SUSE Multi-Linux Manager」、コンテナ管理プラットフォームの「Rancher Prime」、さらにエッジ・IoT向けの軽量Kubernetesである「K3s」まで、インフラ全体をオープンソースでカバーするのがSUSEの基本戦略だ。
なかでも成長が著しいのがSUSE Multi-Linux Managerだ。「RHEL(Red Hat Enterprise Linux)のサポートも、Red Hatではなく弊社から受けたいという企業も多い」とDP氏は言う。その背景にあるのはサポート期間の差だ。SUSEはRHELの旧バージョンに対してもRed Hat本家より長期のサポートを提供できる。レガシーシステムのアップグレードコストに頭を抱える企業にとって、これは現実的な選択肢となる。現在、16以上のディストリビューションとバージョンを単一ツールで管理できることも採用を後押ししているという。
「2つの買収」が示す、エッジとAIへの布石
この間、SUSEは2件の戦略的な買収を実施した。ひとつは2024年に買収したStackStateだ。ITインフラ全体のオブザーバビリティ(可観測性)を提供する技術を持つ企業で、AIの普及によりその価値はさらに高まっている。「GPUに至るまですべてを観測できる。コストの高いGPU環境の最適化に直結する機能です」とDP氏は強調する。
もうひとつは2026年に買収したLosantだ。産業IoT向けのプラットフォーム企業で、MQTT・AMQPといったIoTプロトコルに対応している。エッジのIoTデバイスレベルまで観測・管理できる機能が加わり、SUSEのカバレッジは「膨大なデータセンターから、末端のIoTデバイスまで」を一貫して管理できる体制になった。
コンテナ管理のRancher PrimeとSUSE Linux、そしてこの2社の買収を組み合わせることで、インフラのフルスタック管理という絵姿が整いつつある。すべてがオープンソースベースであることが、ベンダーロックインを回避したいエンタープライズ顧客への訴求点になっている。
データ主権という新しい選定基準
Enterprise Linux市場の拡大を語るうえで、もはや無視できないのがデータ主権(Data Sovereignty)という観点だ。DP氏は、「ベンダーに縛られないことと、ベンダーの所在地にも縛られないことが重要」と語る。
オープンソースを採用することでコードの中身まで確認でき、容易にロックインされない。近年は技術的には可能であっても、政治的にアクセスをブロックされるリスクが現実の問題として浮上しており、ベンダー選定の判断軸は「コストと利便性」から変わりつつある。
ここでSUSEがヨーロッパのベンダーであるという立場が際立つ。米国の法規制の管轄下に置かれていないことは、米国系の大手クラウドベンダーやソフトウェア企業への依存リスクを意識する企業にとって重要な意味を持つのだという。
SUSEが「データ主権の解決企業」と位置付けるSUSE AIも、この文脈にある。「企業データは最大の知的資産。LLMに入力するAIのデータは管理が困難」とDP氏は言う。インプットとアウトプットの両面を安全な環境でコントロールしたいというニーズに応えるため、2022年に買収したNeuVectorのディープパケットインスペクション(DPI)技術をSUSE AIに内蔵している。コンテナのワークロードを常時監視し、機密データが外部に送出されようとした瞬間にブロックする——「漏洩した後に発見するのではなく、漏洩する前に止める」という設計思想だ。
AIエージェントの自律的な動作が活発になるほど、この機能の重要性は増す。エージェントの挙動は事前に把握できないからこそ、DPI自体が自己学習でトレンドを把握し、異常を検知するアプローチが有効になる。「まず止めて、問題がなければ後で開放する。安全側に全部倒す設計です」とDP氏は語る。
APACの状況についてはジェネラルマネージャーのJosep Garcia氏が言及した。「多くのお客様が、運用・保守コストを削減し、イノベーションに予算を振り向けたいとお考えです」。レガシーシステムのクラウドネイティブ化、AIアプリケーションの開発へ——こうした予算シフトの動きはAPAC全体で共通して見られるという。
「3つの自由」で主権を取り戻す──VMware問題が突きつけた現実
データ主権の確保とコスト削減は二律背反ではない──SUSEソフトウエアソリューションズジャパンの渡辺元カントリーマネージャーはそう断言する。
渡辺氏はSUSEが提供できる「自由」を3つの軸を挙げる。OSの自由、ワークロードの自由、そして仮想化の自由だ。
中でも「仮想化の自由」が今、日本の企業ITにとって特に切実な問題になっている。BroadcomによるVMware買収後、ライセンスコストの急騰に直面した企業は少なくない。「ベンダーの都合でコストが跳ね上がり、従わざるを得ない。これが主権のない状態です」と渡辺氏は言い切る。特にSAPマネージドサービス事業者は、インフラコストだけが膨らむ構造に追い込まれているという。
SUSEが提示するのは、段階的な移行パスだ。まずVMwareからSUSE VirtualizationおよびKVMへ移行してコストを抑制し、次にRancher Primeによるコンテナ管理環境へとステップアップする。KVMはSUSE Linux Enterprise OSに標準で内包されており、追加コストは発生しない。「VMwareから離れることが目的ではなく、そこを起点に、AI時代のインフラへ移行できる道筋を整えることが大事です」と渡辺氏は強調する。
主権を取り戻すことと、未来への投資余力を生み出すことは表裏一体だ。ベンダー依存から脱却して得たコスト削減分を、クラウドネイティブ化やAI基盤の構築に振り向ける——それが「主権を取り戻すことの意味」だと、DP氏と渡辺氏の両氏は口を揃える。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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