パドックから見えてきたIFSの価値 1台あたり8千点のパーツ管理にも寄与
キャデラックでは、下記7つの領域でIFSを活用している。それぞれの領域を「IFS Cloud」という単一プラットフォームで統合管理している形だ。数千点におよぶ部品、厳格な生産スケジュール、そして変化の激しいプロセスを効率的に管理できるとする。
- 財務(Financials)
- 調達(Procurement)
- サプライチェーン(Supply Chain)
- 生産(Production)
- 品質管理(Quality Management)
- 在庫(Inventory)
- エンジニアリング運用(Engineering Operations)
もちろん、競合他社も優れた製品を有している。しかし、ヘザリントン氏は「IFS Cloudは特定領域だけでなく、7つの領域すべてにおいてチームの深部にまで組み込まれています。すべてが一つのシステムで接続されることで、チームはより迅速に動くことができるのです」と自信をのぞかせた。また、同社が抱える産業用AI「IFS.ai」も、既にキャデラックF1チームにおいて利用されているという。AIを用いることで従来よりも迅速な意思決定が実現できることは、コストだけでなく時間にも制約があるF1の世界においては極めて重要な意味をもつ。
また、F1の現場における大きな課題がアセット管理だ。特にレースが開催される週末には、40~50トンを超える貨物を世界中から輸送しなければいけない。鈴鹿サーキットを訪れてキャデラックのガレージを覗いたとき、膨大なスペアパーツが整然と並ぶ棚の傍らに、チームから「ストア・レジェンド」と畏敬の念を込めて呼ばれるマット氏が控えていた。同氏は、約8,000点におよぶ車両パーツをリアルタイムで追跡し、必要なパーツが最適なタイミングで確実に利用できるようにしている。
マット氏は、「サーキットで起きるすべてのことは、ファクトリーを起点としたシステムとプロセスによって支えられています。基本的にパーツは、イギリスのシルバーストンで製造・準備され、米国のオペレーション拠点と連携しています。そのすべてを管理するためには、統合された単一プラットフォームが不可欠です」と話す。
写真提供:IFS
極限の緊張状態にあるF1において、ITなしにはヒューマンエラーを防げない。F1は、世界24戦を転戦する過酷な旅でもある。欧州戦では数十台ものトラックを使用して陸送できるが、F1日本グランプリのような諸外国でのレースには空送や海送が欠かせない。効率性を維持するために、チームは複数のガレージキットを準備し、ローテーションで輸送する。つまり、とあるセットを使用している間に、次戦用の機材は既に次の開催地へ向けて輸送されている状態をつくるのだ。特にガレージでは、そのオペレーションにおける規模の大きさが明確に表れている。マシンを稼働させるために必要な数千点のパーツにとどまらず、エンジニアやメカニックは、セッション中や走行の合間に行う連携作業のため使用される無線機を含む、大規模な通信環境にも依存している。
今回、キャデラックは80チャンネルを使い分けており、マット氏も「もはや、あきれるほどの数だ」と話す。これらすべてのデバイスの状態や配置、設定を把握することも、アセット管理の一部である。また、キャデラックは、2029年から自社製パワーユニットを投入することも発表しており、それらを自社工場に戻して完璧にテストし、次のレースに備えるというプロセスの重要性がより高まっていく中、IFSはチームの基幹システムとしての役割を増していく。
「キャデラックF1チームは、文字通りIFSなしでは機能しない」という言葉は、決して誇張ではないだろう。ゼロから挑戦するチームが、いかにITを武器にして強豪に立ち向かうのか。その答えは、マシンの咆哮が響く鈴鹿のガレージに、たしかに刻まれていた。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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