データサイエンス組織がR&Dの悩みを解決するとどうなるか?塩野義製薬が取り組む「研究DX」
「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026」レポート #02
「動物行動薬理試験の自動化」の事例
2つ目の事例は「動物行動薬理試験の自動化」である。動物行動薬理試験の代表的なものに、NORT(Novel Object Recognition Test:新奇物体認識試験)とHTR(Head Rotation Test:首振り反応試験)の2つがある。
例えば、マウスの側に赤いボールと黒い三角の物体を置くとする。常に赤いボールが近くにある場合、マウスは普段と同じなので特に興味を示すことはない。ところが黒い三角の物体を入れると、マウスは未知の物体に興味を示して動き出す。その行動に至るまでの時間を測定するのがNORTである。もう1つのHTRはマウスが首振りをする時の時間を測定するものになる。この2つは研究者が長時間画像や動画を見なくてはならない点で共通する。1つ目の「骨髄細胞の自動分類」と同様に、解析が個人のノウハウに依存すること、作業効率が低いことに問題意識を感じていたと森本氏は振り返った。
解決にあたっては、薬物を投与したマウスが特定の行動をとる意図は何か、どのように動画で定義するか、定義した行動を検出する方法は何かを考慮し、アルゴリズムやツールの開発、作業フローの見直しを行なった。深層学習を用いて、動物の身体の動きをトラッキングするDeepLabCutという技術がある。この技術を単純に適用するだけでは動画のフレーム単位で首振り状態か否かの対応がつけられず、すでにうまくいかないとわかっていた。データサイエンス部が解決策を提案するにあたり、最初に行ったのが1つ目の骨髄細胞の自動分類同様に、データを取得する基盤の整備であった。
NORTにおいては、まず、アノテーションツールを導入し、データ品質を向上することを試みた。また、DeepLabCutは引き続き利用するものの、動画をフレームごとに入力し、CNN(Convolutional Neural Network:畳込みニューラルネットワーク)を用いて、探索と非探索の2つの行動を自動検知する手法を採用することにした。もう1つのHTRでも、NORT同様にDeepLabCutを適用できないかを検証し、可能と判断できた。DeepLabCutを用いることで、長時間にわたり動画視聴を続ける代わりに、特定の時間帯だけ観ればよくなる。
この新しいやり方は大きな効率化をもたらした。ユーザーの目視時間をゼロにすることはできないが、従来の320分から85分へと、視聴時間を約4分の1に短縮することに成功した。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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