ガートナーに聞く「SaaS is Dead」の信憑性──AIは値上げへの“切り札”になりうるのか?
トークン課金と長期契約の罠:ユーザー企業が持つべき対抗策を考える
AIエージェントによる「SaaSの死」は現実のものになるのか。2026年に入ってから、日本でもこの話題への注目度が高まっている。IT部門の調達当事者は実際のところ、どうみているのかも合わせて、ガートナーのアナリストに訊いた。
「SaaS is Dead」ガートナー アナリストの見解は?
まず、現時点での「SaaS is Dead」に関するガートナーアナリストとしての見解を尋ねたところ、海老名剛氏は「AIは急速に進化している。その将来性についてはあらゆる可能性が考えられる中、長期的な展望を現時点で断定することは難しい」と前置きながらも、「現時点のAIが即座にSaaSに置き換わると考えるのは無理がある」との見方を示した。
SaaSと一口に言っても、ポイントソリューションとして提供されている単純なものから、ERPやCRMのように長い時間をかけて蓄積してきた知見を製品に反映させている複雑なものまで、多種多様なものがある。前者は価格もそれほど高くなく、市民開発やAIによるソースコード生成で置き換わる可能性はあるとした。しかし、後者のようにデータ構造がとても複雑なアプリケーションに対し、AIを使って同様の水準のものをユーザー企業が即座に構築できるのか。現実的には難しいと考えるのが妥当だろう。
AIエージェントに何かをやらせる場合も、どのデータへのアクセスを許可するのか、最終的な判断は人が下すべきである。エンタープライズSaaSをAIで内製化することは容易ではない。機密性の高いデータへのアクセスを含むタスクを、エージェントに任せても良いのか、という問題もある。今後の進化の展開次第では、既に指摘されている問題を乗り越えられるかもしれないが、それはAIに限らずすべてのテクノロジーで言えることだ。SaaS is Deadを極端に解釈するべきではない。
また、SaaSのようなソフトウェアの場合、これまでの契約では通常、補償条項があったが、AIが開発したソフトウェアに同じ条項が含まれるとは限らない。仮に業務全般をAIに任せられるとしても、AIが間違ったアウトプットを出した場合、ユーザーが最終的責任を負わされる可能性も低くない。ベンダーがAIの出力結果の利用にともなうリスクを回避する場合もある。ユーザー自身が「ハルシネーション」「バイアス」「権利侵害」のリスクをコントロールしながら使う意識を持った方が良い。
さらに、ベンダー側は自分たちの製品にAI機能を取り込むことに注力している。背景にあるのは、顧客に最新機能を使ってもらい、価値を享受してほしいという思いだが、ビジネスを成長させなくてはならないプレッシャーにもさらされている。安心して使えるかという意味では、慎重さが求められる状況だ。
海外で問題になり始めた“コンサンプション課金”による、想定外の支出
現在、SaaSベンダーが取り組んでいることの1つに、新しい料金体系の構築がある。ガートナージャパンでは、ユーザー企業が主にどのようなAIを調達する方針であるかについて、2026年3月にWeb調査を実施した。AIを今使っている、もしくはこれから本格的に使おうとしている企業346社に対して、「主な」調達方針を尋ねたところ、図1に示す結果になった。実際の調達では、複数のAIを採用するとしても、中心として考えているものを尋ねた結果になる。
右から時計回りに33.2%(115社)がERP、CRM、SCMなどのソフトウェアのAI機能を使うとするもの。次の33.5%(116社)がOpenAIやAnthropicのような汎用的なAIモデルを自社のシステムの中に組み込んだり、連携させたりする使い方を想定している。この2つで全体の3分の2となり、残りは市販のエージェント型AIを使うとする19.4%(67社)、市販の製品を調達する代わりに、自分たち独自のモデルを構築し、新しい仕組みをパートナーのコンサルティングファームやSIerと共に開発するものが13.9%(48社)という構成になった。海老名氏がこの結果を海外の同僚と共有したとき、独自AIを構築するという回答が13.9%もあることに驚かれたと明かす。独自AIを作ろうとする意欲は否定されるものではないが、海外から見ると意外に思うようだ。
日本企業におけるAIの主要調達パターン(出典:Gartner/調査:2026年3月)
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各ユーザー企業はこの調達方針を基に価格交渉をしていくことになる。このうち、新しく登場した課金モデルがコンサンプションベースのものだ。たとえば、出力結果を提供するまでに消費したクレジット量に応じて利用料金が発生するもの。あるいは連携で用いるAPIの数に応じた課金モデルである。
このモデルでは、想定外の請求になることがあり、特に海外で顕在化していると海老名氏は話す。コンサンプションモデルと言っても、完全な従量課金では、企業の予算計画策定時に支障をきたす。そのため、事前に一定額のクレジットを購入してもらい、その範囲内でサービスを利用する。たとえば、毎月1人あたり300クレジットを購入してもらう。上限を超えても、それ以上の利用ができないのであれば、使い過ぎに注意すればいいだけだ。しかし、最近は上限を超えた場合には、追加料金を請求するように変わってきている。この場合、際限なく使えてしまうので、予想外の金額の請求が来てしまう。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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