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2026年冬号(EnterpriseZine Press 2026 Winter)特集「AI時代こそ『攻めの経理・攻めのCFO』に転じる」

冨永裕子の「エンタープライズIT」アナリシス

ガートナーに聞く「SaaS is Dead」の信憑性──AIは値上げへの“切り札”になりうるのか?

トークン課金と長期契約の罠:ユーザー企業が持つべき対抗策を考える

AIコスト増大の罠:予算超過を防ぐための「管理力」と「交渉力」

 さらに、モデルのバージョンアップにともない、クレジット消費量が増えていることがこの問題をより深刻なものにしている。ユーザーは新しい機能を積極的に使いたい。しかし、気に入ってその機能を使い込むと、あっという間に上限を突破してしまう。通常、予算ではあらかじめ多めに確保しているが、余裕は5%ほどで、請求金額が予算の20〜30%上回ることまでは想定していない。海外では日本以上にこのクレジット消費量の問題を深刻にみている。

 AIの普及が進むと、これはより大きな問題になりそうだ。たとえば、エージェントが他のエージェントと連携してタスクを実行する場合のクレジット消費量は、エージェント単独でのタスク実行の場合よりも多くなるだろう。それにともなうコストは、一体誰が負担するのか。もしベンダーがクレジット消費にともなうコストの多くを顧客に転嫁するのであれば、AIエージェントの活用は進まないだろう。実際にはもっとエージェントを使いたいと考えていても、予算は青天井ではない。だからと言って、ベンダーが多くのユーザーに使ってもらうことを優先しようとすると、ベンダーの財務安定性を犠牲にすることにならないか。その判断を投資家が支持するかは疑問に思える。

 いずれは、使い放題プランのようなものが、広く提供されることになるかもしれないが、今はそうなっていない。ユーザー企業が対抗策を講じるとしたら、調達方針に則して、各社の料金体系を理解することだ。「よくわからないけど、どんどん使ってみよう」ではなく、必要なAI機能を必要な人たちだけが使えるようにする。当たり前のように聞こえるかもしれないが、これが結局のところビジネス効果を出せる使い方のはずだ。

 「ベンダーが提示する新しい機能を全面的に受け入れるのではなく、場合によってはオプトアウト(選択的排除)の交渉も必要になる」と海老名氏は指摘する。ビジネス価値を得るためにも、ユーザー企業には、社内需要やAIのコスト効果を見積る管理能力とベンダーとの交渉力の獲得が求められている。

AIはSaaS値上げの切り札か?それとも火に油か?

 AIエージェント導入に向けての機運が高まる中、おもしろいことに、ガートナージャパンに寄せられた問い合せの中に、「“SaaS is Dead”という言葉を聞くようになったが、全面的にAI活用に転換することを匂わせることは、契約交渉を有利に進める材料になるか?」というものがあったという。経営層から「もうSaaS買うのは止めてAIにしなさい」とプレッシャーをかけられているわけではないが、ここ数年のソフトウェア価格の上昇を抑制するよう、うまく交渉してほしいという気持ちが背後にあるというのが海老名氏の解釈である。

 契約中のSaaSを解約する動きが最近、顕著であるわけでない。それでも交渉材料に使おうとする気持ちの裏側には、ここ数年の経済環境の変化がある。1つは、ロシアとウクライナの戦争以降の地政学リスクの高まりを背景に、物価が急騰したこと。もう1つは、急激に進んだ円安である。ベンダーによっては、サブスクリプション料金を毎年数%ずつ値上げするところもあり、この2つを理由にした値上げが2023年、2024年と続いたところに、AIという破壊的テクノロジーが登場した。

 ユーザー企業としては、「中長期的にAIメインにする姿勢を示すことで値上げに対抗できるのではないか?」と考えたくなるところだが、交渉材料にすることは容易ではない。ベンダー側は、新しいAI機能を提供することで、より高いビジネス価値を実現できることを強調し、値上げの材料にしてくるだろう。AIが出てきたから安価に調達できるのではなく、AIが加わることでむしろソフトウェア自体の料金が高くなるとの想定が必要だここで避けるべきは、SaaS全盛期のような長期契約である。3年契約、あるいは5年契約で新しいAI機能を全部使えるとの提案を受け入れたとする。この場合、契約期間中に利用料金が莫大なものになると気づいても止められない。

 さらに海老名氏は、地政学リスクの観点でも長期契約はリスクが高いとみる。AIに関する法律の方向性は各国で足並みがそろっていない。2022年以前には国際的に共通のルールを作ろうとする機運もあったが、現在は分断が進んでいるという。たとえば、他国で開発されたAIに厳しい制約が課せられ、実質的にその国で開発されたAIしか使用できない場合もある。AIの開発や利用で他国よりも先んじようとするモチベーションが勝り、開発者へ安全性確認の義務を負わせるルールが不足している場合もある。長期契約に縛られると、国や地域のルールに合わない使いにくいものになるリスクがある。AIを使うことにブレーキをかけるべきではないが、このようなリスクがあることを踏まえつつ、安全に利用するため、確実にビジネス価値を得られるためのAI利用計画を立て、実践してほしいと海老名氏は訴えた。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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