ストックマークは2026年5月14日、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主導する国内生成AI開発力強化プロジェクト「GENIAC」第4期に採択されたことを受け、国内大手企業16社と共に「日本企業の暗黙知/社内データ AI-Ready化プロジェクト」を発足した。同日、開催された記者発表会には、プロジェクトに参画する味の素、伊藤忠商事、スズキ、三井住友銀行、三菱ケミカルなど各社のCxOやリーダーら16名が登壇。

同プロジェクトでは、企業内に埋もれている図面、マニュアル、実験データ、さらには熟練者の経験といった「暗黙知」や「非公開データ」を、AIが容易に扱える状態(AI-Ready化)に変換することに取り組む。具体的には、独自の生成AI関連技術を活用し、ビジネス現場における実用的な利活用事例の創出を目指す。参画企業には、味の素、伊藤忠商事、スズキ、三井住友銀行、三菱ケミカル、LIXILなど、日本を代表する多様な業種の16社が名を連ねた。これまで汎用AIでは対応が困難であった特定ドメインにおける「AI-Ready化」のノウハウを確立することで、日本企業の生成AI活用力の底上げと、実社会への実装を強力に推進していく構えだ。
ストックマーク 代表取締役CEOの林達氏は、生成AI活用の主戦場がインターネット上の公開データから、企業内部に蓄積された独自のデータへと移り変わっている現状を指摘した。現在、多くの企業がPoC(概念実証)の段階で停滞している要因はAIモデルの性能不足ではなく、社内に眠る図面や熟練者のノウハウといった複雑なデータが「AIが扱える状態」になっていないことにあるという。
林氏は「本当に重要なデータは企業の中に眠っている」と断言し、日本企業の持つ暗黙知を競争力へ転換することこそが同プロジェクトの核心であると述べた。特に、全世界のエンタープライズデータの2割以上を占める製造分野のデータをAI資産化することは、日本にとって高いポテンシャルを秘めた挑戦であると強調。
経済産業省の奥家敏和氏は、行政の立場から「AI政策はデータ政策そのものである」と言い切る。同氏は、AIの学習に用いられる公開データが2026年にも枯渇すると予測される中で、データをAIが理解できる形に精製する能力こそが今後の鍵を握ると訴えた。
奥家氏は、「データを作ること自体がノウハウの塊」であり、日本が持つ現場のデータを自分たちの資産として使えるように整えることが、米中のAI巨頭に対抗し、国際競争力を確保する上で不可欠であると説く。自分たちの強みを「AI-Ready化」の手法で精製し、日本独自の存在感を示していくことに強い期待を寄せた。
同プロジェクトは、実データ・実業務を通して、主に5つのユースケースで検証を進めていく。
機密性の高いデータを扱うため、ガードレール機能の実装やプライベート環境でのデータ処理といったセキュリティ対策が徹底されることも強調された。一方で、プロジェクトで得られた知見のうち、他社でも活用可能な標準的プロセスやベストプラクティスについては、11月の成果発表会以降、社会に公開・還元される方針であるという。
登壇者コメント:各社が抱える課題と期待
発表会では、参画16社のリーダーが登壇し、プロジェクトへの期待を表明した。16社の暫定のプロジェクトテーマは以下の通り。
味の素(執行役常務CDO スムリガ・ミロスラブ氏)
「製造業データの理解に特化したマルチモーダルAI基盤の構築は、グローバルな競争力において非常に重要になる」
伊藤忠商事(准執行役員IT・デジタル戦略部長 浦上善一郎氏)
「現場で積み上げた経験や勘という暗黙知を、相場観の予測などに活用し形式知化できるかにチャレンジしたい」
NGK(取締役専務執行役員 森潤氏)
「セラミックス業界は暗黙知が多い。研究者の頭の中にある知見を引き出し、AIが活用できるプラットフォームを構築したい」
神戸製鋼所(執行役員 入谷一夫氏)
「熟練者の経験や判断が個人に蓄積されている状態だ。AIが使える形に変換し、現場の判断を支える基盤に整えたい」
ジェイテクト(研究開発センター長 小野﨑徹氏)
「生産年齢人口が減る中、暗黙知を見える化して残すことは必須。どこから手をつけるべきかを含め、プロセスを確立したい」
スズキ(常務役員IT本部長 野中彰氏)
「部門によって言葉や道具が異なる。市場の品質問題をいち早く解決するため、言語以外も含めたデータを同じプラットフォームで扱いたい」
住友化学(常務理事DX推進室長 土佐泰夫氏)
「現場がAIを意識することなく活用できる状態にしたい。得られた知見を『レシピ』として全社展開することを目指す」
太陽誘電(開発研究所 開発企画部 茂木昌詩氏)
「研究開発の常識は日々更新される。有効な知見を見極め、継続的にアップデートできる仕組みを構築したい」
帝人(CTO補佐 尾崎大介氏)
「属人化している輸出管理などの複雑な工程を効率化したい。半年という短期間でどこまでできるか検証していく」
東京電力ホールディングス(常務執行役 関知道氏)
「ダム管理などの非常に多い暗黙知を形式知化し、流域の安全確保やカーボンニュートラルへの貢献につなげたい」
日揮ホールディングス(執行役員CDO 谷川圭史氏)
「熟練シニアの引退という課題がある。エンジニアの知恵をAIで活用し、日本の理工系人材が夢を持って働ける環境を作りたい」
三井住友銀行(執行役員 八木修氏)
「個人の経験に頼っている高度な金融提案のノウハウを整理し、お客様への提案力向上と従業員の生産性向上につなげたい」
三菱ケミカル(執行役員チーフデジタルオフィサー 浦本直彦氏)
「データを構造化して『インテリジェンス』に変えることが重要。業界を超えた取り組みの第1歩として期待している」
ヤンマーホールディングス(取締役経営戦略・技術・DX担当 奥山博史氏)
「匠の技を形式知化し、ゆくゆくは高齢化が進む農業分野などの社会課題解決にも役立てたい」
ライオン(執行役員 全社デジタル戦略担当、デジタル戦略部担当 中林紀彦氏)
「数十年のマーケティング知見をAI化し、素材を最高の料理に変えるようなマーケティング・トランスフォーメーションを実現したい」
LIXIL(常務役員CX部門リーダー 安井卓氏)
「熟練コーディネーターの接客データを形式知化し、AIエージェントが顧客と共にプランを作れる未来を目指したい」
プロジェクトは、2026年5月から10月までの半年間で集中的にPoCを実施し、11月にはその成果発表会を予定している。最終的な事業期間は2027年3月末までとなる。林氏は、「モデル開発だけでなく、データをAIが使える形に変えることが産業AI実装の本質」と語り、このプロジェクトを通じて得られるベストプラクティスを、参画企業のみならず日本全体へ波及させていく考えを示した。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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