NetAppは米国ラスベガスにて2026年9月29日〜10月1日、年次カンファレンス「NetApp INSIGHT 2026」を開催。29日の基調講演では同社CEOらが、統合データプラットフォーム「The NetApp Platform」と、それを構成する主要な新製品群などを発表した。前日のメディア向け説明会で発表された内容とあわせて紹介する。
講演冒頭、NetApp CEOのジョージ・クリアン(George Kurian)氏は、企業がAI活用をPoCから本番運用へ移行するにあたっての課題を語った。Gartnerの予測によれば、2026年までにエンタープライズアプリケーションの40%にタスク特化型AIエージェントが組み込まれ、2028年までに日常的なビジネス意思決定の15%を自律型AIエージェントが担う時代が到来するという。しかし現在、AIプロジェクトに取り組む企業の93%がPoCから実稼働への移行で足踏みをしている。その背景には、大きく「インフラ」と「データ」という2つの障壁が存在する。
- インフラ:モダンなGPUは従来のCPUに比べて約40倍という超高速でデータを処理・消費する。並列性と並列度が極めて高いGPU環境に対し、従来のストレージアーキテクチャでは十分な速度でデータを供給できず、高価な計算リソースがアイドル状態に陥るデータ供給ボトルネックが発生している
- データ:従業員に代わって自律的に業務を遂行するAIエージェントには、人間と同様に記憶(Memory)と文脈(Context)が不可欠となる。記憶とは、企業が長年蓄積してきた膨大なデータであり、文脈とはそのデータが生み出された背景、アクセス権限、組織内の位置づけ(メタデータやナレッジグラフ)を指す。データ単体があっても文脈が失われていれば、AIエージェントはセキュアかつ正確な意思決定を下せない
「AIモデルは日々進化し、GPUなどの計算資源は連続的にレンタル・交換される一時的なインフラに過ぎない。あらゆるシナリオにおいて、企業が真に所有し、競合優位性の源泉となるのは『企業の独自データ』そのものである」(クリアン氏)
この課題に対し、NetAppが提示した解が統合アーキテクチャ「The NetApp Platform」だ。同プラットフォームは、以下の4つの柱で構成される。
- AI-Ready Data:ETL(抽出・加工・取込)によるデータの複製や移動を排除し、分散したデータを元の場所のままAIや分析ツールから直接利用可能にする「ゼロコピー有効化(Zero-Copy Activation)」を実現
- Unified Storage:小規模な拠点やエッジから、パブリッククラウド、超大規模AIファクトリーまで、ファイル・ブロック・オブジェクトを単一のアーキテクチャでカバー
- Proactive Protection:AI主導のサイバー攻撃やランサムウェア脅威に対し、データレイヤー自体に自律型セキュリティとガバナンスを組み込んで防護
- Complete Control:AIを活用し、ハイブリッドマルチクラウド全体の運用・最適化を自律化。自然言語による管理インターフェースを提供
また、今年の基調講演で最大のハイライトとなったのが、AIファクトリー向けにゼロから設計された新世代ファイルシステム「NetApp Novus」(以下、Novus)の発表だ。クリアン氏は、「2013年のData Fabric発表、2017年の最初のハイパースケーラーネイティブサービス発表以来、当社にとって最も重要な発表だ」と語る。Novusは、単一のネームスペースにおいて業界初・世界最高速となる毎秒100テラバイト(100TB/s)の入出力(I/O)スループットを実現。これは、5万基規模の最新GPUクラスターに対して各GPUへ2GB/sのデータ給餌を持続的に行える性能だ。
さらに、拡張性においてはエクサバイト(EB)を超え、2ゼタバイト(ZB)に達するマルチゼタバイトネームスペースをサポート。世界中で前年に出荷された全ストレージ(SSD、HDD、磁気テープ)の総容量を、単一のネームスペース下で統合・管理できる計算になる。
Novusはオープン標準規格である「pNFS Lattice」を採用し、メタデータ管理面とデータ転送面を物理的に分離する新構造を備えている。VAST DataやWEKAといった競合他社が独自の有償・プロプライエタリ技術で囲い込みを図るのに対し、NetAppはオープンソース・オープン規格を商用製品として落とし込むことで、ベンダーロックインのないAIエコシステムを提供するとした。
基調講演では、HPC・並列ファイルシステム界のレジェンドであるロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)のゲイリー・グライダー(Gary Grider)氏も議論に加わり、pNFS Latticeの優位性が語られた。詳細は、後日別記事で紹介予定だ。
なお、Novasの提供ロードマップは、まずオールフラッシュアレイ「AFF A90」(データサーバー部)とSupermicro製サーバー(メタデータサーバー部)を組み合わせたハードウェア構成で、2026年10月に一般提供(GA)を開始。追って2027年第1四半期には、任意の汎用x86サーバーとLinux/KVM上で動作する完全ソフトウェアデファインド(SDS)モデルへと展開されるという。
また、昨年のイベントで発表された「AI Data Engine(AIDE)」は、ついに一般提供(GA)が開始された。これは、企業内に埋もれる非構造化データを移動させることなくスキャン・分類し、メタデータカタログやナレッジグラフを付加して文脈(コンテキスト)を与える知能化ソフトウェア群。オープンなプロトコルであるMCPやAPIを備え、ClaudeやCursorなどのLLM・開発環境と連携可能だ。
さらに、直近で買収を完了したData Pelagoの技術を統合し、GPUやDPUを活用したアクセラレーションにより、データ分析・前処理パイプラインの高速化をストレージ直下で実行するという。なお、AIDEおよび新しいメタデータ機能を最初の6ヵ月間は無償で提供するとのことだ。
同社サービスの料金形態に関しては、クラウド型従量課金モデル「Keystone」において、100%の可用性・性能・価格保護をコミットする新たなSLA保証を開始。また、欧州をはじめとする各国のデータ主権規制に対応するため、メタデータやレベル1〜3のサポート運用を地域内に限定・自己完結させる「Keystone Sovereign」も発表された。まずは、11月初旬にフランスおよびドイツにてパイロット提供が開始される。
そのほか、主要パブリッククラウド(AWS、Microsoft Azure、Google Cloud)におけるNetAppのファーストパーティ・サービスの進捗と、新たなパートナーシップにも言及された。現在、NetAppのパブリッククラウドサービスを利用するエンタープライズ顧客は5,700社を超え、運用データ量は3.3エクサバイト(EB)に達している。年平均成長率は45〜50%と高水準を維持しており、特にEDA(半導体設計自動化、700PB超)や高負荷データベース、大規模ファイルシェア領域で急速な採用が進んでいる。
たとえば、AWSとの共同開発製品「Amazon FSx for NetApp ONTAP」では、S3 Access Point連携機能の導入により、データ移動なしにBedrockやSageMakerといった60以上のAWS AI・分析サービスとの統合運用を行う顧客が360社以上に増加している。また、マルチクラウド戦略の強化として以下が発表された。
- Jetstream買収によるVMware移行・DRの強化:従来のSnapMirror(NetApp間複製)に加え、vSphere APIを活用した異種ストレージ間のVMMレベル・ブロックレベルでの継続的レプリケーションを実現。VMware環境の災害対策(DR)やパブリッククラウド(Azure VMware SolutionやAWS EBSなど)への迅速な移行を後押しする
- Oracle Cloud Infrastructure(OCI)とのファーストパーティ統合:AWS、Azure、GCPに続き、OCIへのネイティブ組み込み(First-party Integration)を正式発表。Oracleデータベースや高性能EDAワークロードを、クラウド上でアプリケーションの修正なしにリフト&シフト可能とした
続いて、データ管理の運用体験を変革する「NetApp Console」(以下、Console)および自律運用(Autonomous Unified Operations)の詳細も紹介された。Consoleは、オンプレミスから主要パブリッククラウド、エッジ、AIファクトリーに至るまで、多層化・複雑化するハイブリッド・マルチクラウド環境全体のデータ資産を一元管理する統合コントロールプレーン。ONTAP、StorageGRID、E-Seriesといった従来の異なるストレージ構造を単一のデータステートとして統合・可視化し、IT運用のサイロ化と手動作業の負荷を解消する。
基調講演では、ConsoleがThe NetApp Platformの中核を担う「自律型コントロールプレーン」へと進化し、一般提供(GA)を開始したことが発表された。具体的に新しく実装された機能は以下のとおり。
- 自然言語・音声操作とローカルLLM持ち込み(BYO-LLM)対応:外部のパブリックSaaSに頼らず、Hugging Faceなどから企業自身が選択したローカルLLMを自社インフラ上に持ち込んで運用可能になった。管理者はチャットや音声から自然言語で指示するだけで、AIがバックエンドの操作へ自動変換・実行する
- 40項目以上の手動判断を排するインテントベース運用:従来プロビジョニング時に必要だった容量決定や設定パラメータなど、40項目以上の手動判断ステップを排除。「Storage Class(ストレージクラス)」として目的やサービスレベルを定義・指定するだけで、ストレージフリート全体へ一括でポリシーが自動適用される
- 不具合を事前に回避するバックグラウンドAIエージェント:AIエージェントがバックグラウンドでインフラの状態を常時監視・予測分析。容量の逼迫やパフォーマンス障害の予兆を未然に察知し、管理者が手動対応する前に自律的な予防措置・最適化を行う
- 完全隔離環境へのローカルデプロイ:外部ネットワークから完全遮断されたダークサイトや、厳格なデータ主権要件が求められるソブリン環境においても、コントロールプレーン自体をローカル環境へ完全にデプロイして稼働させることが可能になった
また、仮想化基盤の市場環境変化にともない、VMwareなどの単一ベンダー依存からマルチハイパーバイザー環境へ移行する企業が急増している。NetAppは既存のVMware、Red Hat OpenShiftとの連携に加え、今年初めに投資を発表していたNutanixとのパートナーシップ統合の一般提供(GA)をメディア向け説明会にて発表した。
NetAppのデータインフラストラクチャ上で、NutanixのハイパーバイザーであるNutanix AHVおよびNutanix Cloud Infrastructure(NCI)がサポートされる。既存のNetAppユーザーは使い慣れたストレージ基盤を保持したままNutanix AHVを追加でき、新規検討ユーザーはベスト・オブ・ブリードの仮想化・ハイブリッドクラウド環境を柔軟に構築可能となる。
そのほか、ハイブリッド・マルチクラウドを支えるものとして新たに以下が発表された。
- StorageGRIDへのApache IcebergおよびPolaris Catalogのネイティブ統合:オブジェクトストレージ「StorageGRID」上で、オープン規格のApache IcebergテーブルとPolaris Catalogを直接サポート。データレイクハウス構築においてデータを移動・ETLすることなく、Spark、Trino、Dremio、DuckDBといったクエリエンジンから直接超高速分析が可能となった
- LustreベースHPC向けの「EF8000/EF80」リファレンスアーキテクチャ:従来のLustre環境で課題となっていた運用の複雑さと可用性の欠如を解決するため、NetAppの高性能ストレージEFシリーズを用いた検証済みリファレンスアーキテクチャを提供
- Commvaultとの包括的サイバーレジリエンス連携(GA):ONTAPのリアルタイムランサムウェア検知機能「ARP AI」や不可変スナップショット(Snapshot)、クリーンルーム復旧ワークフローと、Commvaultのバックアップ・Recovery Cyber Vaultを制御プレーンレベルで統合。高度なエアギャップサイバーボルト構成を単一の統合体験として提供
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