日立ソリューションズは2026年4月15日、安全保障貿易管理業務の効率化・標準化を支援するAIエージェントサービスの提供開始を発表した。地政学リスクの高まりを背景に、輸出管理に関わる規制強化が各国で進む中、2009年から展開してきた同ソリューションにAI機能を追加した。
安全保障貿易管理は、武器転用の恐れがある製品・技術・サービスが、安全保障上懸念のある相手方に渡らないように管理する取り組みである。具体的には、顧客審査、該非判定、取引・出荷審査の3業務で構成される。
添田氏は、サプライチェーンのグローバル化と多層化が進む中で、どの製品・技術をどの国の誰に提供するかという判断が企業の経営リスクになっていると説明した。あわせて、各国の規制改正サイクルが短期化し、最新情報の追跡と実務への反映が担当者の負担になっているとした。
経済産業省の調査(2024年度)によれば、外為法違反の要因は「管理体制」が36%、「該非判定」が52%を占め、故意による違反はわずか2%に過ぎない。また、外為法違反に該当した企業のうち資本金3億円超の企業が約4割を占めており(JETRO「ジェトロ世界貿易投資報告 2025年版」)、中小企業だけでなく大企業も十分に対応できていない実態がある。
庄谷氏は現場で発生している課題として、審査情報の分散、判断根拠のばらつき、監査・引き継ぎ時の確認負荷を挙げた。取引先情報、技術使用関連法令、過去の判断事例が分散し、審査に必要な情報収集に時間を要するという。あわせて、懸念性の判断や根拠の残し方が担当者ごとに異なり、組織としての再現性と説明力に課題があるとした。さらに、判断根拠が不十分な場合は監査対応や引き継ぎ時に確認作業が都度発生すると述べた。「現行のソリューションでも一定の課題対応はできていたが、輸出管理の幅と深さが増し続けている。人の負担に依存する部分が非常に大きくなってきた」と話した。
今回の機能追加にあたり、日立ソリューションズは自社を「カスタマーゼロ」と位置づけ、米国グループ会社の輸出管理業務でAIエージェントを先行活用してきた。川尻氏は「自らの業務で使い、改善を重ねてきた取り組みである」と説明した。米国拠点での取り組みは社内AIコンテストで社長賞を受賞し、そこで得たノウハウを今回のサービスに組み込んだ。同コンテストは全社横断で約1,800件の応募を集め、優良ユースケースとして200件超を選定。生成AIの社内利用率は20%から約90%に拡大し、プロジェクトへの適用率は100%を達成したという。
新たに実装したAIエージェントは、顧客審査と該非判定の2業務を対象とする。顧客審査AIエージェントでは、取引先の法人名、事業内容、既存契約、制裁リストなどの関連情報を複数のAIエージェントが協調して収集・分析し、調査レポートとして出力する。庄谷氏は、担当者がレポート確認後の最終判断に集中できるため「審査の初動スピードを大幅に向上できる」と説明した。取引先の出資者情報やボイコット・コンプライアンス観点でのチェック結果も一括出力する。扱う品目や取引先の構成は企業ごとに異なるため、調査・レポート内容を企業別にカスタマイズできる点も特徴だとした。
該非判定AIエージェントは、対象製品がどの法令のどの項番に該当するかを調査し、根拠情報とともに出力する。情報が不足している場合は、材質やスペックなど必要情報を質問形式で担当者に提示し、判断プロセスを段階的に支援する仕組みとした。庄谷氏は「AIエージェントの導入によって、審査の標準化と迅速化を実現できる」と述べた。
今後の拡張として、取引審査への機能拡大、添付ファイルのアップロードに対応したマルチモーダル化、英語表示対応によるグローバル運用の標準化の3点を庄谷氏は挙げた。
日立ソリューションズの安全保障貿易管理ソリューションは現在、製造業を中心に350社以上が利用しているという。添田氏は「ユーザーコミュニティを通じてニーズを把握しながら機能強化を続けてきた。今年2月のユーザー会でも参加企業の8割がAI活用への高い関心を示した」と述べ、既存顧客を中心に展開を加速する方針を示した。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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