なぜCursorは、ランサムウェアAuroraに狙われたのか?──Darktrace CEOが語る、従来型防御が見逃す攻撃と振る舞い検知
Darktrace CEOインタビュー
Darktrace最高経営責任者(CEO)のエド・ジェニングス(Ed Jennings)氏が来日し、ダークトレース・ジャパン カントリーマネージャーの田井祥雅氏とともにインタビューに答えた。ジェニングス氏は、AIによって攻撃の量と速さが変わり、既知の脅威を止める従来型の防御では追いつかなくなっていると説明。ネットワークやID、メールなどの「振る舞い」を見る防御が、AIエージェントの時代に必要な層になるとの考えを示した。
Darktraceは2013年に英ケンブリッジで創業。ロンドン五輪に携わった人材、英国の情報機関の出身者、ケンブリッジ大学でAIを研究していた研究者が集まって立ち上げたと説明する。脅威情報やブラックリストに頼る従来のセキュリティはいずれ限界を迎えるとの見立てから、振る舞い分析を原点に据えたという。現在の顧客数は1万社、グローバルの従業員数は2,300人としている。
日本法人は2015年に事務所を開設したと、田井氏は話す。ここ5年は2桁成長が続き、直近3年は50%以上伸びているとした。導入先はメガバンク3行のうち2行をはじめ、地方銀行、病院、製造業、学校、自治体に及ぶという。セキュリティ専任組織が数十人いる銀行では検知の精度が、IT担当者が数名の病院ではAIによる自動対処が評価されていると、同氏は説明した。
ジェニングス氏は、今週の来日で前日のイベントを含め多くの顧客や見込み客と会い、政府機関とも意見を交わしたと語る。日本の首相が発信しているとおり、日本はいまサイバーセキュリティの緊急事態にあると、同氏は述べた。
同氏はこの業界に20年以上身を置いており、長年のセキュリティは「このメールは安全か」「このエンドポイントは安全か」と問い、既知の悪を見つけて止める発想だったと振り返る。インシデントのあと、取締役会から「エンドポイントは入れていたのか」「次世代ファイアウォールは」と問われ、すべて導入済みだったと答える顧客も少なくないという。
「そこにAIが加わったことで事態はさらに深刻になった」と、ジェニングス氏は言う。同氏によると、CVEの件数は年間2万件程度だったものが今年は7万5,000〜7万6,000件規模に増え、2026年にMythosが登場してからは、悪用されるCVEの90%が最初の24時間以内に攻撃されている。「無限にスケールし、境界なくマシンスピードで動くエージェントがいる世界では、セキュリティ担当者が投げかけるべき問いも変わった」(ジェニングス氏)
同氏は具体例として、Hugging Faceへの攻撃を挙げた。攻撃側のエージェントは承認済みで、健全なエンドポイント上で動き、正当なIDと許可されたアプリケーションを使っていたため、従来のシグナルでは攻撃に見えなかったと説明する。Darktraceが自社のサンドボックスで再現して振る舞いを調べたところ、過去にアクセスのないアプリケーションへの接続、通常を大きく超える権限の拡大、サーバーへのブルートフォース攻撃が見つかった。
5月から6月にかけて活動したロシア系ランサムウェアグループ「Aurora」の攻撃も、同氏は紹介した。公開された範囲で10組織が標的になり、7組織が被害を受けたとしている。攻撃者は標的に大量のメールを送って受信箱を溢れさせ、続けて「ITヘルプデスクです」と従業員に電話をかけて、正規の認証情報を手に入れたという。10社すべてでこの手口が通ったと、同氏は話す。
攻撃者は次に、各社のネットワーク上にあったAIコーディングツール「Cursor」を探したと、ジェニングス氏は説明する。ネットワークの把握や機密データの特定を指示しても、当初はガードレールに阻まれたが、「承認されたセキュリティテストだ」と伝えて回避した。Cursorの支援でデータの所在や特権アカウントを洗い出し、暗号化データまで作ったという。完全な自律型ではなくAI支援型の攻撃だったが、組織に実行されたと同氏は述べた。
ログインは正規で、コードの悪用もなく、標準的な管理ツールが使われ、マルウェアの痕跡もなかったため、狙われる企業が事前に防ぐ手立てはなかったという。一方、振る舞いを見れば、認証情報の不正な使われ方やCursorへの異常な権限付与など、止められる箇所は複数あったと述べた。
Darktraceの知的財産の大半は、単発の異常にアラートを出す部分ではなく、点と点をつないで攻撃チェーンとして可視化する部分にあると、同氏は説明する。そのうえで「AIエージェントは新たなインサイダー脅威だと考えている」と述べた。社内で作られた正規のエージェントでも、外部から送り込まれたエージェントでも、普段の振る舞いからの逸脱を捉える点は、人間の内部関係者を見つけてきた手法と同じだとしている。外部攻撃と内部犯行で検知のアプローチは本質的に変わらず、操られたエージェントも、ドリフトした社内エージェントも、悪意を持った従業員も、同社の目には似た異常として映るという。
同社がこの10年で築いたのが「Darktrace Behavioral Defense Platform」で、ネットワークからクラウド、OT、エンドポイント、メール、コラボレーションツールへ広げてきたという。今週は最新の「Secure AI」の一般提供開始を発表した。シャドーAIの検知、エージェントのアイデンティティ管理、プロンプト分析を担うとしている。2週間前には、OpenAIの「Daybreak」プログラムの一員として最新モデルをサンドボックスで検証する「Darktrace Signal Labs」の設立も発表したと、ジェニングス氏は話す。
Microsoft DefenderやCrowdStrike、Splunkなどとの違いを問われたジェニングス氏は、ファイアウォールやエンドポイントのベンダーとは協業関係にあると答えた。Darktraceは2年前にMicrosoftのCyber Partner of the Yearを受賞したという。従来の製品はシグネチャや既知のIOCに基づく受動的な検知が中心で、同社は企業ごとのカスタムプロファイルで平常時のベースラインを学ぶ点が違うと説明した。
技術面を補足した田井氏は、従来のセキュリティ製品はほぼすべてが教師ありAIで、悪いものの数が増え続けて学習が追いつかなくなっていると指摘する。統計的な外れ値検知にも、曜日や季節で通常の通信が変わるという落とし穴があるとした。同社はベイズ理論を使った予測モデルを動的に生成し、AIが作る複数のクラスタごとに「次に何が起きるか」を予測して、今の事象が範囲内かをリアルタイムでスコアリングしているという。
「いつもと違う振る舞いを見つけること自体は難しくない。難しいのは、それが業務上の正当な変化か、悪意ある攻撃かの判定だ」と、田井氏は補足した。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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