カビ毒や残留農薬に汚染されたいわゆる「事故米」が、工業用のりなどの非食用として政府から売り渡された後、不正に食用として転売された「事故米不正転売事件」。企業や官庁の日常的な業務の在り方が問われている。
転売業者、焼酎メーカー、それぞれの危機管理
本件は、「食の安全」「経済犯罪」という2つの異なる側面を持っている。また、その一方で、企業や官庁の日常的な業務の在り方、クライシスマネジメント、コンプライアンスが問われてもおり、組織のコンプライアンス対応を研究する者にとって非常に興味深い事件である。そこで本稿では特に関係者のクライシスマネジメントの問題に焦点をあて、考えてみよう。
まず、三笠フーズ等の意図的に事故米の転売を行った業者について。これらの業者はコンプライアンスやクライシスマネジメントを語れるようなレベルの問題ではない。発覚後にどんな適切な対応をとったところで、許される余地のない犯罪行為である。
一方で、流通した事故米を購入してしまった焼酎メーカーの対応は適切だったと評価できる。蒸留後の製品に有害物質が混入する可能性が著しく低く、また現実に製品から検出されていないとしても、それを理由に商品の回収に消極的な姿勢をとっていれば、消費者の信頼を大きく損なっていたであろう。直ちに製品回収の決断をしたことは正しい判断であり、それによってかえって消費者の信頼を高めたのではないか。
むろん、事故米と知らずに購入してしまったとしても、原料の出所由来を調査する必要はなかったのかなど、事実を解明し反省すべき点は反省する態度を怠るべきではない。

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郷原 信郎(ゴウハラ ノブオ)
東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事などを経て、2005年から桐蔭横浜大学法科大学院教授、同大学コンプライアンス研究センター長。警察大学校専門講師、防衛施設庁や国土交通省の公正入札調査会議委員なども務める。主な著書に、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『コンプライアンス革命─...
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