明治は3月14日、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が提供する「AWS Mainframe Modernization」を活用して、メインフレーム(大型コンピューター)上のアプリケーションのモダナイズとAWSへの移行を開始したと発表した。同日、両社合同で記者説明会を開催。
まず、AWS サービス&テクノロジー事業統括本部技術本部長の小林正人氏が登壇し、メインフレームのモダナイゼーションに向けた取り組みを説明した。同社ではオンプレミスからクラウドへの移行については、長年におよび顧客との議論やナレッジを集積し、ベストプラクティスをまとめている。しかし近年では、顧客から「オンプレミスの資産は移行の目途が立ってきたが、実はメインフレームがまだある」と相談されることが増えていると小林氏は話す。そこで同社は2021年の年次イベントにて、メインフレームアプリケーションのクラウド移行を支援するサービス「AWS Mainframe Modernization」を発表。2022年12月から東京リージョンでも提供開始している。
AWS Mainframe Modernizationがカバーする移行戦略は「リファクタリング」と「リプラットフォーム」が大きな柱になるという。リファクタリングでは「Blu Age」により、メインフレームで動くアプリケーションをJavaベースに自動変換する機能を提供。リプラットフォームでは、メインフレームで動いているプログラムをそのままAWSに移行する「Micro Focus」を提供している。
次に、明治 執行役員 デジタル推進本部 本部長の古賀猛文氏が登壇し、同社の取り組みを発表した。同社では30年以上、業務システムなどの基幹系システムをメインフレームで構築・運用してきたという。2009年に明治製菓・明治乳業が経営統合したことで、「両社の業務アプリケーションを整理し、メインフレーム中心からオープン化がより進んだ」と古賀氏は話す。2020年以降は、法改正などビジネス環境の変化により、クラウドサービスを取り入れた。その結果、メインフレーム上のアプリケーションは14%にまで削減。しかし、これらを維持するために年間数億円かかる状況だという。
メインフレームが抱える課題はそれだけではない。古賀氏は経済産業省が発表した「2025年の崖」を挙げ、「レガシーシステムの問題について当てはまる状況だった」と話す。COBOLなどレガシー言語を扱える人材は社内に多くいる状況だというが、外部に委託する際には確保が難しい。新たに採用した人材にレガシー言語の教育の必要もあり、即戦力で活躍しづらい弊害もあった。さらに、ベンダーロックの状態にもあり、運用コストが右肩上がりだったとした。
そこで同社はメインフレームからの脱却を決意。メインフレーム上の15,000処理を棚卸し、3つに分類し、モダナイゼーションすべき範囲を明確にした。
モダナイゼーションすべき範囲のうち、販売系基幹システムは新たに構築することにし、2024年2月に移行完了している。重複した処理の再整備を行い、各機能を部品化することで、障害リスクを削減できたという。データ基盤の変更により、クラウドサービスを含む外部システムとのデータ連携をシームレスに実行できるようにETLツールを採用して、データ連携をすべて疎結合化した。この結果、データの利活用の速度が向上するとともに、保守人員をスリム化できたという。
その他システムについては、メインフレーム上の資産を維持しながらAWSに移行することにした。「多くは本番稼働を迎えており、一部は旧システムと並行稼働中だが、2024年6月には古いシステムをすべて停止する予定」だと話し、同月に基幹システムの全面移行を完了する見込みだ。
明治ではこれらのメインフレームからの脱却に、AWS Mainframe Modernizationを採用した。同サービスが発表された3ヵ月後の2022年2月にAWSに問い合わせたという。この時点では国内事例はまだなかったが、サービス内容が同社が考える方針に沿っていたことからまずはPoCをすることにした。PoCではあえて複雑でかつデータ件数が多い処理などを実施。古賀氏は「この結果が想定以上に良好だった」と振り返る。結果の検証や他社の比較検討、社内調整を5ヵ月で完了し、2023年1月からプロジェクトを始動させた。
古賀氏は「国内初事例ということで、前例のないサービスを選定するリスクは当然あった」と言うが、同部署が掲げるミッション「デジタルで『やりたい』を『できる』に変える。」や、バリューの「前例は自分たちでつくれ。」に沿って、決断したという。「もちろん推進する上では予想外のリスクがあることが否定できない。だが、明治が国内のメインフレーム要件をAWSに伝えることで、他の日本企業でも同じことができるようになるのでは」と話す。
プロジェクト体制は、Blu Ageのチームに加えて、AWSジャパンのプロフェッショナルサービスも活用。「自動変換だけであれば、弊社側チームとBlu Ageチームのみでも推進が可能だそうだが、社内人材では英語のコミュニケーションも難しかったから」と説明した。AWSジャパンのプロフェッショナルサービスチームがBlu Ageチームとの調整や課題管理、インフラ環境サポートなどを行ったという。古賀氏は「計画通り本番移行できるようしっかり伴走してもらった。このサポートがあったらから、今回のプロジェクトが成功した」と強調。
プロジェクト導入効果として次の3つを想定している。
古賀氏は最後に「今回のプロジェクトで基盤の最新化、データの利活用基盤が整備されることで、今後はこれらのデータを他のシステムと連携したり、AIの活用に活かしたりして、新たなステージに最短距離でいきたい」と話し、締めくくった。
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