損保社長からAIスタートアップへ転身/「Cursor」によるプロダクト開発で現場を変える
GenerativeX 執行役員 CDXO 桑原茂雄さんインタビュー
「現場に即したAI」──泥臭い課題を最速で解決

──取り組んでおられるプロダクトの例を教えてください。
桑原:たとえば、生命保険の「保険金支払い承認システム」のようなものに取り組んでいます。
保険の現場では、担当者が「この金額で保険金を支払いたい」と課長に申請をあげてきます。課長さんたちは毎日、膨大な数の申請を、契約書や診断書など何十枚もの資料と付き合わせて、正しいかどうかチェックし、承認・差し戻しを判断しています。正直、業務の6~7割はこの「点検と承認」で埋まってしまう。そこで、「これ、AIで自動化できないか?」という声が必ず現場から上がってくる。昔から同じような課題を感じていたので、これはAIの出番だなと直感しました。
このシステムでは、部下から上がってきた申請内容を、AIが「契約内容と一致しているか」「診断書の病名や日数計算は正しいか」など自動で突き合わせていく。もし申請額が間違っていたら「申請は150万円だけど正しくは130万円だよ」「病名が違うから差し戻し」みたいに自動判定してくれるんです。これまでは課長さんが1つ1つチェックしていた作業が、大幅に効率化されます。
もう1つよく相談があるのが、カスタマーセンターでの「音声入力支援」ですね。電話の向こうのお客様の声って、雑踏のなかだったり方言だったりで、なかなか聞き取れない。従来の音声認識は正直、現場では使い物にならなかった。でも発想を変えて、「オペレーターの復唱音声だけAIに拾わせればいい」と考えたんです。
たとえばオペレーターが「保険の種類はがん保険ですね、被保険者は○○様ですね、疾病は○○ですね」と復唱する──するとAIがこのやりとりから必要な情報だけを抽出して、入力フォームに自動的に記入してくれる。「昨日」と発話したら自動的にその日の日付が入力されたり、項目の抜け漏れも復唱しながらチェックできる。オペレーターは手入力が不要になって本来の業務に集中できるし、変換ミスも大幅に減らせます。
こういう「現場の泥臭い課題」をピンポイントでAIに解かせる──そこが1番のポイントなんです。
もちろん、これらの開発は全部自然言語でやっています。まずPowerPointで画面の流れや必要なメニューをざっくり描き、要件をCursorに自然言語で細かく渡します。合っていなければ即フィードバック。「Command+k」で部分修正。何度も何度もやり直しながら「現場に本当にフィットしたAI」を目指しています。
実際、私が自宅で骨折して安静にしていたとき、1週間でこういうプロトタイプをどんどん作っていったんです。これまでの私の経験や保険業界のライフプランナーの知見などを取り込んだプロダクトができるのも強みです。
従来の大手コンサルやSIerでは要件定義からプロトタイプ、検証まで1年以上かかるものも、今は自分たちで1人で回せる。納期が短いほどコストも下がり、現場にもすぐフィットする──この「スピードと手離れの良さ」が、今の時代の強みですね。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア