放送局での業務自動化に「Gemini」が大活躍──「AI関数」によるデータ分析/アプリ開発の民主化
#5:GeminiによるGoogle スプレッドシート / AppSheet内製アプリの機能強化

Google スプレッドシートでデータをまとめ、AppSheetで業務アプリを管理する──こうした日々の業務の中で、「このツール自体が、もっと賢く手伝ってくれたら」と感じたことはないでしょうか。これまでは、私たちの指示を正確に実行するだけの「道具」だったアプリケーションが、Geminiの統合によって、私たちの意図を汲み取り、思考する「パートナー」へと進化を遂げました。本稿では、「Google スプレッドシートのAI関数」と「Gemini in AppSheet」を用いた業務自動化の新たな可能性を探ります。この連載はリレー形式でGoogle Cloud公式ユーザー会Jagu'e'rのメンバーがお届けしており、今回は民間の放送局でIT業務に携わる倉田が担当。自身の業務経験に基づき、放送局で起こりがちな具体例を交えながら、これらの機能をご紹介します。
「AI関数」が大量データを素早く分析
これまでのスプレッドシートにおけるGemini活用は、サイドパネルでの「データ分析」が中心でした。しかし、新たに進化した「AI関数」は、その役割を大きく変えます。既存のデータを要約・分類するだけでなく、シートの情報に基づいてまったく新しいテキストやアイデアを生成することが可能になりました。これは、スプレッドシートが「計算・分析ツール」から「創造・生成ツール」へと進化する大きな一歩です。
基本的な使い方は、
=AI("プロンプト", [対象のセル範囲])
というシンプルな構文で、AIにあらゆる指示を出すだけです。それでは具体的な活用例を見ていきましょう。なお、本稿では英語でプロンプトを入力していますが、9月23日より日本語でのプロンプト入力対応が順次ロールアウトされています。
テキストの生成(Generate text):アイデア作成から速報ニュースの原稿まで
AI関数の特筆すべき点はこの「生成」機能です。番組のプロデューサーや宣伝担当者が、新しい番組のキャッチコピーに頭を悩ませたり、SNSでの告知文を考えあぐねたりする時間は、もう必要ないかもしれません。アイデアに行き詰まったとき、AI関数は頼れるブレインストーミングの相手になります。
たとえば、若者向けの深夜バラエティ新番組の企画概要がA2セルに入力されているシートで、SNSで告知するための宣伝文を考えたいとします。B2セルに次のように入力するだけで、AIが複数の案を提示してくれます。
=AI("Generate 5 catchy promotional sentences for this TV show to post on SNS, including relevant hashtags.", A2)(このテレビ番組について、SNSに投稿するためのキャッチーな宣伝文をハッシュタグ付きで5個生成して)

図1:AI関数を使って宣伝文を生成しているスプレッドシート
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提案された宣伝文を基に、さらに人間がブラッシュアップを加える。このようなAIとの共同作業が、これからは当たり前になるでしょう。
この生成機能は、定型ながらも速報性が求められる報道現場でもその真価を発揮します。弊社では、役所から送られてくる事件・事故の情報がリアルタイムでスプレッドシートに集約される仕組みがあります。これまでは担当者が情報を基に放送原稿を一から作成していましたが、AI関数を用いることで、このフローの改善が期待できます。
これにより、事件の種別に応じた決まったフォーマットの原稿テンプレートが瞬時に生成。担当者はゼロから文章を作成する必要がなくなり、生成されたテンプレートに修正や加筆を行うだけで、すぐに放送準備に入ることができるのです。この活用法は、報道のスピードアップはもちろん、緊急時における担当者の業務負担軽減にも貢献します(この事例はJagu'e'r GWS分科会主催の「GWS事例コンテスト2025」で優秀賞を受賞しました)。
情報の要約(Summarize information):大量のデータも素早く分析
情報過多の現代において、長時間のインタビューの文字起こしや、視聴者から寄せられた大量の感想をすべて読むのは時間がかかります。AI関数を使えば、その内容を素早く要約し、意思決定を加速させます。
たとえば、人気番組の放送後、公式サイトのフォームやSNSに寄せられた多数の視聴者からの感想が、自動的にGoogleスプレッドシートに集約されている状況を想像してください。番組プロデューサーが視聴者の反応を把握するために、このシートを確認します。各視聴者からの熱心な長文の感想がA列に並んでいる中で、まずは全体的な傾向を把握したいとき、隣のセルに以下のように入力します。
=AI("Summarize the key positive and negative points from these viewer comments in three bullet points.", A2:A4)(これらの視聴者コメントから、ポジティブな点とネガティブな点の要点を3つの箇条書きで要約して)

図2:視聴者からのフィードバックを要約している例
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これにより、個々の意見に目を通す前に、全体の論調を掴むことができます。「Aのコーナーは好意的な意見が多いが、Bの出演者の発言には批判的な意見が目立つ」といったインサイトが得られれば、次の企画会議での議論も明確になります。
情報の分類(Categorize information)と感情分析(Analyze sentiment):データを自動で仕分け
大量のデータを人の手で仕分けるのは骨の折れる作業です。番組の公式サイトには視聴者から寄せられる様々な問い合わせが、次々とスプレッドシートに追加されていきます。これを一件ずつ開き、内容を確認して担当部署に振り分ける……そんな光景は過去のものになるかもしれません。
AI関数は、定義に基づいてデータを自動で分類することができるのです。たとえば、フォームから送信された問い合わせ内容(A2セル)を「番組内容に関する意見」「出演者へのメッセージ」「紹介したお店に関する問い合わせ」「プレゼント応募」に分類するには、次のようにします。
=AI("Categorize this inquiry as 'Opinion on the show', 'Message to cast', 'Question about a featured restaurant', or 'Giveaway entry'", A2)(この問い合わせを「番組内容に関する意見」「出演者へのメッセージ」「紹介したお店に関する問い合わせ」「プレゼント応募」に分類して)
さらに、テキストに含まれる感情を分析することも可能です。問い合わせ内容の感情がポジティブかネガティブかを知りたい場合は、以下のように入力します。
=AI("Classify the sentiment of the email body as either positive, negative, or neutral", A2)(このメール本文の感情を「ポジティブ」「ネガティブ」「中立」に分類して」)

図3:問い合わせ内容をカテゴリー分類し、同時に感情分析を行っている例
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これにより、「番組内容に関する意見」の中でも特に不満(ネガティブ)を持つ視聴者の意見に耳を傾けるなど、データに基づいたきめ細やかな対応が実現します。これらのAI関数は、大量のデータに対しても有効です。一つのセルに関数を設定し、その数式を列全体に適用するだけで、すべての行に対して一括で分類や分析が実行されます。
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- この記事の著者
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倉田 智(クラタ トモ)
株式会社毎日放送 放送局におけるIT人材育成・クラウド利活用推進を担当。 Google Cloud 公式ユーザー会 Jagu'e'r エバンジェリスト・GWS(Google Workspace)分科会の運営に携わる。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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