タケダが内製のデジタル人材育成に挑戦──半年間、育成プロジェクト“のみ”に専念させた施策の裏側とは
伝統的な大企業にありがちな「組織の壁」を打ち破る、アジャイルな組織文化実現の道筋

武田薬品工業(以下、タケダ)では、製薬業界が直面するデジタル化の波と、それにともなう高度な専門人材不足という構造的な課題にともない、全社的なデジタル変革に乗り出している。その取り組みの中心にあるのが、画期的なデジタル人材育成プログラムとそれを支えるアジャイルな組織文化への変革だ。本稿では、2025年8月27~28日に開催された「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」に登壇したタケダ ジャパンファーマビジネスユニット データ・デジタル&テクノロジー部 デジタルアクセラレーション ヘッド 打川智子氏の講演から、同社がなぜこの挑戦に踏み切ったのか、そしてその具体的なプロセスとそこから得られた成果などを紹介する。
製薬業界に蔓延る「デジタル専門人材の不足」に立ち向かうタケダ
創業から240年以上の歴史を持つタケダ。同社の存在意義は「世界中の人々の健康と輝かしい未来に貢献する」ことだと打川氏は説明する。その根幹を支える「誠実:公正・正直・不屈であること」を行動規範とする価値観「タケダイズム」を道標としながら、常に患者を第一に据えることが同社の行動指針だ。この価値観を実現するため、同社は“データとデジタルの力を活用したイノベーション”を企業理念の約束のひとつとして掲げ、全社的な取り組みを推進している。

デジタル化による変革を推進すべく、同社の日本事業部門が着手したのがデジタル人材の育成、リスキリングだ。その背景について、打川氏はまず「高度なデジタル専門人材の不足」を挙げる。昨今の技術革新や環境変化によるビジネスチャンスが多々ある中で、業界をよく知る専門人材が製薬業界全体で不足しているとのことだ。
また、「社内外の専門人材をつなぐ『翻訳者』、つまりビジネスとデジタルの両方を知る人材が必要だと考えた」と同氏は語る。加えて、タケダのビジネスを深く知る既存社員にデジタルの付加価値を与え、その融合を促進することが同社の長年の強みをさらに活かす道だと考えたという。こういった背景を踏まえ、同社は社員のスキルアップとキャリアチェンジの機会創出も見据えた、大胆な施策に乗り出した。
同社はまず、日本事業部門の全従業員に対し、データ・デジタル&テクノロジー部が運営を担う社内選抜型リスキリングプログラム「DD&Tアカデミー」の参加募集を行った。このプログラムでは、応募条件を「日本のビジネス部門の社員であること」のみに絞り、役職、入社年次、性別といった一切の制約を排除したという。
「DD&Tアカデミーの告知から公募までの間には、オンライン説明会や動画配信、DD&Tメンバーとの交流企画などの施策を通してプロジェクトの目的や学べる内容、参加者に期待することなどを丁寧に伝えていった」と打川氏。これにより、デジタル分野へのキャリアチェンジに興味を持つ潜在的な人材を幅広く募ることに成功した。結果として150名を超える応募があり、倍率は約5倍に達したそうだ。特に応募者の大半を占めたのが、顧客と直接向き合ってきたMR(医薬情報担当者)だった。

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