カメラアクセサリー3,000点の需要予測を自動化したニコン:R&D部門が先導した柔軟な開発の舞台裏
Databricksで刷新したシステム開発プロセス。高精度な需要予測をいかにして実現したのか
R&D部門が運用まで? アジャイルな開発・運用の軌跡
この需要予測を担うデータ基盤に用いられているのがDatabricksである。ニコンでは、2019年ごろから社内のデータ活用基盤としてDatabricksを活用している。導入の背景について西野氏は「社内にはSQLでデータベース管理をしているチームもあれば、Pythonでアルゴリズム開発を行うチームも存在しているため、どちらもカバーできる基盤が求められていました。Databricksがそのニーズに上手くはまったことがきっかけです」と話す。
需要予測システムを社内で展開するフェーズで、Databricksの強みは発揮される。西野氏は「他部署に需要予測システムを使ってもらうところにも、Databricksを活用できることに気が付いたのです」と振り返る。これまではR&D部門が開発したモデルを実用化するにあたっては、ウォーターフォール型に則った情報システム部門との連携が不可欠だったが、Databricksを用いることでプロトタイプ開発から実証までを自部門で完結でき、よりアジャイルな開発・運用を実現できたのだ。
通常、R&D部門は開発したものを運用に乗せるところまで携わることは少ない。西野氏は「社内でも開発の先は“できないもの”だとして一線を引かれることが多いのですが、今回の取り組みでは運用までを我々の部門で進めることができました。しかも、そんなに難しいことではないということも分かりました。これはとても意味のある経験だったと感じています」と語る。
この需要予測システムは2024年4月ごろから検証が進められ、およそ1年かけてDatabricksの機能追加とテストが行われてきたという。2025年4月からは部分的な機能テストを行い、8月から全面稼働を開始している。
サプライチェーン全体を最適化するデータプラットフォームへ
Databricksの活用効果について西野氏は「チーム内のコミュニケーション向上」を挙げる。「Databricksを使うと、同じ開発プロジェクトにいるメンバーが書いたコードをすべて共有できるため、他の人が何をやっているのかが分かるようになりました。コードという知識を共用できるようになったことは教育の面でもプラスに働いています」と語る。また運用のフェーズでは、実際のユーザーに開発者と同じワークスペースに入ってもらうことで、コミュニケーションが取りやすくなったとし、「Databricks Unity Catalog機能を使えば、権限管理も簡単に行えて便利です」と欧陽氏は述べる。
需要予測システムは運用フェーズを迎えているが、今後より使いやすいシステムにするための改善も進めているところだと両氏は話す。現在は、MLflow機能を利用してアクセサリー品目の需要予測を行うモデルのパフォーマンスをモニタリングしている。MLflowを用いて取得したログを見ると、計算の速度が十分ではないことも少なくないとして、「今後色々な方法を試して改善していきたいと思っています」と欧陽氏は述べる。
より先の将来を見据えたときには、サプライチェーン全体をデジタル化・自動化する計画も検討していきたいと西野氏は語る。需要予測の精度が向上すれば、それが在庫管理の最適化につながり、ひいては生産計画の効率化、物流コストの削減へと波及していくだろう。この一連のプロセスを統合し、サプライチェーンの各段階で発生する膨大なデータを一元管理・分析することができれば、より効率的な事業運営が実現すると考えられる。
「せっかく一つのデータベースに色々なデータをあげるのなら、データ同士をつないでいけば、より研究開発がしやすい環境が整うのではないかと考えています。ゆくゆくはそういった未来を実現していきたいですね」(西野氏)
この記事は参考になりましたか?
- DB Press連載記事一覧
-
- カメラアクセサリー3,000点の需要予測を自動化したニコン:R&D部門が先導した柔軟な開発...
- カプコンが“AAAタイトル”を支える共通基盤に「TiDB」を選んだ理由 無停止基盤のつくり...
- 「オンプレ資産」こそAIの金脈 相次ぐ買収で陣容を整えるCloudera、その勝算は
- この記事の著者
-
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア