レノボ・エンタープライズ・ソリューションズとニデックは2025年10月28日、AIデータセンター向けの水冷ソリューションを共同でプロモーションすると発表した。
AIデータセンターの電力課題に対応、液冷式の採用が加速
近年、AIの活用が急速に拡大する中で、それらを支えるAIデータセンターの高性能化・大規模化が進んでおり、数千台規模のAIサーバーが設置されるケースも増えている。従来のデータセンターでは、空調機器とファンを用いた空冷式が一般的だったが、AIサーバーの中核を担う画像処理半導体(GPU)は、高度な演算処理の過程で摂氏100度近くの高熱を発するため、空冷式の冷却性能では対処が難しくなっている。
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長の張磊(チョウ ライ)氏は、データセンターの電力消費の急増について言及した。「AIの進化にともない、データセンターの電力消費が急激に増加しており、国全体の電力消費の1割程度を占める状況になりつつある」と指摘し、「実は大半の電力は演算ではなく、冷やすために使われている」と説明した。
こうした課題に対応するために、冷却液を配管で循環させる液冷式の採用が進んでいる。液冷式は、高い冷却効率と環境負荷の低減を両立できる技術として、今後のデータセンター基盤において重要な要素と位置付けられている。
今回の取り組みにおいては、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)で高いシェアを持つレノボの高度な液体冷却技術 「Lenovo Neptune」と、ニデックが提供するデータセンター内の冷却水を安定的かつ効率的に循環させるCDU(Coolant Distribution Unit)を組み合わせ、電力使用効率に優れ、環境負荷の低減に貢献する冷却ソリューションを共同でプロモーションする。
共同検証済みの同ソリューションは、AIサーバーの安定的な稼働を支える直接液冷方式を採用し、温水・純水の再利用による電力使用の最適化と環境負荷の低減を実現する。データセンター全体の冷却効率が大幅に向上することで、冷却システムの安定性が高まり、温度管理や機器トラブル対応にかかる施設管理者の運用負担の軽減が期待されるとともに、消費電力の削減にも貢献する。
100%水冷カバーと温水冷却で最大40%の電力削減を実現
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの野上友和氏は、Lenovo Neptuneサーバーの技術的特徴について詳しく説明した。その最大の特徴は、CPUやGPUのみという部分冷却だけではなく、メモリや電源ユニットといった熱源をすべて温水で冷却可能な100%水冷カバーと呼ばれる排熱技術を提供している点にある。
もう1つの大きな特徴が温水冷却技術である。Lenovo Neptuneは、IBMのメインフレームで培われた水冷技術を用い、コールドプレートを駆使した温水冷却技術を10年以上研究し、自社開発で進めてきた。野上氏は「現在では最大45度の温水入力でも最大100%の熱除去率を達成することができ、サーバーやインフラストラクチャーにおけるデータセンターのエネルギー使用量を大幅に削減できる」と説明した。
さらに、温水冷却および電力削減を実現するために必要不可欠な要素が純水である。野上氏は「純水ベースのクーラントは、一般的に使われているグリコールベースと比較すると、粘度や粘性が低く、CDUポンプの圧力を低く抑えることができ、ここでも電力を削減することが可能だ」と語った。
サーバーを直接液体で冷却することでシステム内のファンをなくすことに成功し、ここだけでも10%から20%の削減になる。これにともないサーバールームに放出される熱をさらに削減することができるため、サーバールームのエアコンシステムをなくすことも可能となり、大きな電力の削減が実現する。
世界トップクラスの出荷実績を持つニデックのCDU技術
ニデック 執行役員の田中裕司氏は、ニデックの冷却システムソリューションの強みとして、同社がモーター技術で培ってきた品質、信頼性、生産実力、精密加工技術を挙げた。「特にこういった精密部品には、金属の精密な加工や仕組みが多く使われている」と述べ、この技術を展開していることを強調した。
信頼性については、具体的な実績を示した。「昨年から今年の夏にかけて、CDUであるクーラント製品を7,000台ぐらい世の中に出荷しており、この数から言うと、すでに世界のCDUメーカーの中ではトップクラスになっている」と説明し、市場での高い信頼性を蓄積していることを強調した。
ニデックが提供する製品ラインアップには、インラック型のCDUがある。これはサーバーラック内、サーバーラックの一番下に設置され、ラックごとに1つ付いて、その上にあるラック内のサーバーに冷水を供給する。AC電源タイプの新しい製品で、200キロワットの大容量に対応している。
また、DC電源タイプの大型CDUも提供している。田中氏は「ニデック製のコンプレッサーを使っており、特に自動車関連で非常に高い信頼性、厳しい環境に対する信頼性を満たすようなものを応用して、この水冷のために最適化している」と説明した。この大型タイプは、10から12ラック分をカバーできるもので、国内でも採用が決まっているという。
野上氏は、過去に水冷ソリューションを世界中で構築し運用を担当してきた中で、CDUの障害およびメンテナンス性という課題に直面してきたと明かした。「液体冷却システムにおいて、水は人間の体における血液のような役割をしており、心臓に当たる部分がまさにCDUになる」と説明し、障害やメンテナンスの必要が発生した時にはシステムを停止してメンテナンスする必要があることを指摘した。
しかし、ニデックはこの技術的な課題に果敢に挑戦し、世界でも類を見ない冗長なCDUの開発に成功したという。ポンプ、電源基盤、制御基盤の3種類がそれぞれ冗長化されており、「どちらが壊れても、交換するまでの間、片方だけでも稼働できる冗長設計を実現している」と田中氏は言う。
野上氏は「レノボとニデックの世界クラスの技術を融合させ、日本の顧客へ届けることを大変嬉しく思っている」と述べ、「ニデックの日本品質、日本製の信頼を取り入れたスーパー水冷ソリューションを取り入れることによって、水冷ソリューションをネクストレベルに引き上げたい」と今後の展望を語った。同ソリューションは、最初に国内市場を対象に提供を開始し、将来的には海外展開も検討している。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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