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なぜ物流現場のAIは使われないのか? 成果をわける「現場の意思決定」を組み込むバーティカルAI

電話で価格交渉する「バーティカルAI」も登場、その実力とは

AIが運送会社からの値上げ要求にも対応 注目集める「バーティカルAI」

 業界や用途に特化し、現場特有の判断や例外処理を担えるAIをバーティカルAIと呼びます。既にいくつもの新しいサービスや事例が生まれ、世界的に注目を集めています。

 バーティカルAIの特徴は、大きく3つあります。

 まずは、業界独自の文脈やデータを取り込めることです。たとえば、その業界で用いられている専門用語、過去の取引履歴、定型的な業務フローなどをバーティカルAIに教え込むことで、業界特有のナレッジに基づいて判断できるようになります。つまり、ChatGPTのような汎用的なAIが知らない「業界の常識」「暗黙のルール」を理解してくれるのです。

 次に、業界独自のユーザー体験を実現できること。これは業界特有の業務フローや制約を理解し、現場に最適化されたUX設計が可能だということです。デスクワークだけでなく、現場でも“自然に利用してもらう”ための音声入力やカメラ入力、リアルタイム処理、書き込み権限の設定など、現場に必要な機能を実装できます。

 そして、実務を実行するためのエージェントとして機能する──単にデータベースを参照して答えを返すのではなく、AIがタスクを実行する──ことが重要です。バーティカルAIであれば、業界でよく使われている基幹システムやデータベースとの(APIによる)データ連携に対応している製品が多いため、大掛かりな追加開発をせずとも、AIエージェントとして業務フローに組み込むことが可能です。

物流業界に広がる「AIエージェント」の活用事例

 既に物流業界では、配車調整や運賃交渉、問い合わせ対応などといった、人間にしかできないとされていた領域でもAIエージェントが活用されています。その代表的な事例の一つがバーティカルAI「HappyRobot」です。

 米国スタートアップのHappyRobotは、配車のブローカー業務を音声AIが代替するサービスです。物流現場で配車担当者が日常的に行っている「案件説明」「レート交渉」「ドライバー情報の確認」といった一連の業務フローを、AIがそのまま担います。

 同社が公開しているデモンストレーションでは、AIが運送会社に対し、「明日積みの食品ドライバン案件です。積地は〇〇で8時から16時、卸は△△で金曜日10時です」と案件内容を簡潔に説明します。これに対し、運送会社が「前回はいくらでしたか」と尋ねると、AIは「前回は2,000ドルでした」と回答。すると運送会社は「今回は100ドル上げてほしい」と値上げを要求します。

 ここでおもしろいのは、AIが「少々お待ちください。上司に確認します」と応答し、実際にSlackや電話を通じて社内承認をとる点です。上司が会話内容を確認し、増額を承認すると、AIは運送会社に電話で「2,050ドルで承認できます」と伝えます。その後もAIがドライバーや車両情報を確認し、最終的に配車システムへ案件登録まで行います。

 この一連のやり取りが示しているのは、AIが会話だけではなく「実務プロセス」そのものを代行できるということです。

 そして何よりも注目すべきは、実際の通話に近い「揺れ」や「駆け引き」に対応している点でしょう。相手が値上げを要求するという場面において、AIが社内の承認フローを踏んだ上で返答までしています。案件の確定までを自然な音声会話で進めてくれる、言い換えれば「配車担当者の仕事を(音声対応のまま)AIが代行できる」ということです。

 

 HappyRobotによるデモンストレーションからは、バーティカルAIの特徴もつかめます。

  • UX(音声):業界独自の慣習に沿った自然な音声でのやり取りが可能で、必要な情報を必要なタイミングで話すよう調整されています
  • 独自のUX設計:現場のワークフロー(上司の承認許可)をSlack連携で組み込んでいます。実際の現場における業務フローを組み込むことで、実務に即したAIの運用が可能になります
  • 業界独自のナレッジ:過去のレート履歴を参照し、相場感を理解した判断が可能です。「大体いくら」という感覚から導き出すプロセスでも、AIは過去のデータと経験則から導き出せます
  • エージェント機能:問い合わせ対応から案件管理、後続の事務システム処理までを一貫して自動実行します

 実際にHappyRobotを用いることで、電話対応に割いていた業務時間を半減できたことで、運営コストを3分の1にまで削減している実績があります。また、2025年11月には、DHLサプライチェーン(DHL Supply Chain)がHappyRobotとパートナーシップを締結したことで、年間数十万件のメールと数百万分に及ぶ音声を分析処理する計画が進められています。

 他にも物流業界では、HappyRobotのように配車業務に特化したFleetworksをはじめ、project44やFourKites、Pando、Augmentなど、バーティカルAIが次々に登場しています。

次のページ
「バーティカルAI」導入に向けて

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この記事の著者

齋藤 祐介(サイトウ ユウスケ)

アカチセ株式会社 代表取締役。東京大学大学院農学国際専修修了。外資系戦略コンサルティングファームを経て、海外起業した後Exit。その後、株式会社ラクスルにて物流DXサービス「ハコベルコネクト」の立ち上げを牽引(デジタル戦略部長他)。2020年に株式会社アカチセを創業し、産業特化AI(バーティカルAI...

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