なぜ物流現場のAIは使われないのか? 成果をわける「現場の意思決定」を組み込むバーティカルAI
電話で価格交渉する「バーティカルAI」も登場、その実力とは
近年、生成AIやAIエージェントの導入は急速に進んでいます。しかし、業界固有の知見が必要な現場では「PoC」止まりで本番運用に至らないケースも少なくありません。こうした中、注目されているのが業界固有の文脈を前提に設計される「バーティカルAI(Vertical AI)」です。本稿では、アナログ産業のAX(AIトランスフォーメーション)を推進する筆者が、物流現場においてなぜバーティカルAIが成果につながるのか、その考え方と実装のポイントを解説します。
AI導入が進む物流業界 なぜ現場は変わらない?
物流業界では、AIを導入するためのPoCは数多く進められています。しかし、本番運用に至らず、現場の業務を大きく変えるまでに至っていないケースも少なくありません。その背景には、現場特有の業務構造があります。
物流の現場では、細かな業務マニュアルが体系化されていないことが多く、荷主・取引先ごとに異なるローカルルールが存在します。さらに、会社独自の慣習や過去の経緯が積み重なり、業務判断は複雑な前提条件の上に成り立っています。こうした環境では、AIを導入しても、業務の中核を担う“判断する”というプロセスまで踏み込めません。
もちろん、生成AIは指示を与えればうまく動く「頭のいい新人」のような存在です。しかし、物流現場では「この荷主は急ぎを優先する」「この取引先とは関係性を考慮した価格調整が必要だ」といった暗黙知に基づいた判断が日常的に行われています。こうした判断をすべて明文化し、AIに指示することは現実的ではありません。
その結果、AIは一部の作業効率化には使われても、現場の意思決定や業務フロー自体を変える存在にはなりきれず、「導入したが、使われない」という状況が生まれます。この導入と定着のギャップこそが、多くのAI推進担当者の不安や疑問の源泉となっています。
では、どうすればこの壁を越えられるのでしょうか。解決の鍵となるのが、物流現場における固有の「現場文脈(コンテキスト)」です。
重要なのは、こうした文脈を人の経験にとどめず、AIが参照できる形で蓄積・整理できているかどうかです。この“文脈の壁”を越えるアプローチとして、業界特化型の「バーティカルAI」に期待が集まっています。
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齋藤 祐介(サイトウ ユウスケ)
アカチセ株式会社 代表取締役。東京大学大学院農学国際専修修了。外資系戦略コンサルティングファームを経て、海外起業した後Exit。その後、株式会社ラクスルにて物流DXサービス「ハコベルコネクト」の立ち上げを牽引(デジタル戦略部長他)。2020年に株式会社アカチセを創業し、産業特化AI(バーティカルAI...
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