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産業用AIを「経営の武器」にするリーダーの条件──5%の成功企業とPoC止まりの分水嶺

「IFS AI Industrial X Unleashed」セッションレポート

「5%のギャップ」を埋めるには?:“PoC死”を回避し、全社スケールさせるための要件

 マサチューセッツ工科大学(MIT) 情報システム研究センター(CISR) 主任研究員のステファニー・ウォーナー(Stephanie Woerner)氏は、AIの試験的な導入を行った企業の多くが、実質的なリターンを得られずに「PoC死の罠」に陥っていると指摘する。驚くべきことに、投資収益(ROI)を担保し、組織全体でスケールさせている成功企業はわずか5%に過ぎないという。

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マサチューセッツ工科大学(MIT) 情報システム研究センター(CISR) 主任研究員

ステファニー・ウォーナー(Stephanie Woerner)氏

 この“5%の壁”を突破したリーダー企業と、それ以外を分かつ要因は何か──。ウォーナー氏とDeloitteのランジット・バワ(Ranjit Bawa)氏は、最新の研究に基づき、以下の成功要因を提示した。

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Deloitte ランジット・バワ(Ranjit Bawa)氏

「クローズドループ」の完結

 AIを単なる情報検索アシスタントにとどめておくうちは、ROIは生まれない。異常の「特定」から、修理指示の「作成」、必要なパーツの「手配」、そして作業完了後の「データフィードバック」までを、AIが自律的に連携させるために「閉じたループ(クローズドループ)」を構築することが不可欠だという。これにより、初めて人手不足の解消と生産性の向上が現実のものとなる。

自律的なオーケストレーションへの移行

 これまでの自動化は、AならばBという「構造化されたプロセス」に基づいていた。しかし次のフェーズでは、人間が設定した目標に、AIエージェントが状況に合わせて最適な手段を自ら選択して実行するオーケストレーションへと移行する。これにより、組織は予期せぬ事態に対しても高い適応力を持つようになるという。

組織全体の「テクノロジー筋力」の養成

 「AIがあなたを置き換えるのではない。AIを知っている人が、あなたを置き換えるのだ」──この言葉は、今やあらゆる部門の従業員にいえることだ。バワ氏は、「AIそのものよりも、AIの文化的受容の方が大きな課題である」と警鐘を鳴らす。一部の「AI推進部門」だけが突出するのではなく、ビジネス部門がテクノロジーを学び、テクノロジー部門がビジネスの現場を理解する「相互の筋力強化」が必要である。全員がある程度のテクノロジー専門家(テクノロジスト)になる文化こそが、全社スケールを実現する最強の地盤となるという。

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 では、PoCの壁を越え、ROIを実現している5%の組織になるには、具体的に何が必要なのか。セッションの締めくくりとして、両氏はリーダーが取り組むべき要件を整理した。

 ウォーナー氏は、初期段階における「徹底した優先順位付け」の重要性を説く。「千の花を咲かせる(多くの試行を行う)」ことも重要だが、真に価値を生むプロジェクトを絞り込む必要があるとした上で、成功に不可欠な「4つのピース」を挙げた。

 「取り組むべきは、『システム』『データ』『人材』、そして最後のピースとなる『信頼とスチュワードシップ(責任ある管理)』の4点だ。いかにガバナンスを効かせ、テクノロジーに対する信頼を築くかが、将来のビジネスモデルを再考するための土台となる」(ウォーナー氏)

 これに加えてバワ氏は、組織を動かすための「現実的な強制力」の必要性を強調した。

 「成功に必要なのは、昔ながらの『飴と鞭』によるガバナンスだ。具体的なターゲットを定め、時には『バーニング・プラットフォーム(追い込まれた状況)』を作り出す。タスクや期限といった、人々が責任を持って成果を追い求めざるを得ない環境こそが、最大の集中力を生み出すこともある」(バワ氏)

 AIという未知の領域に挑む際、とかく「理想」が語られがちだが、5%の成功企業は極めて現実的だ。既存システムに溶け込む実装、明確な優先順位、そして責任ある管理体制と成果への執着。これらが揃って初めて、産業用AIは「実証実験」という殻を破り、経営を支える真の武器となるのである。

未来を予測するのではなく、ともに創るマインドセット

 カンファレンスの締めくくりとして、モファット氏は再び壇上に立ち、産業界のリーダーが直面している現状を総括した。

 「この世界で勝つのは、最も大きな会社ではない。最も速い会社、そして行動する勇気を持った会社だ」とモファット氏は断言する。AIの進化速度が従来の企業の意思決定サイクルを上回っていることを示す。完璧な正解を待ってから動く企業は、その答えが出た頃には市場における競争優位を失っている可能性が高いだろう。

 モファット氏は、MITのモットーである「Mens et Manus(心と手)」を引用し、知能は実践的に応用されて初めて意味を持つと強調した。IFSが提唱する「Industrial X」とは、物理とデジタルが交差する現場において、理想論ではなく実際に動く解決策を提示し続けることに他ならない。

 最後にモファット氏は、「メッセージは非常にシンプルだ。勇気を示し、今すぐ行動し、我々と共に構築しよう。皆さんの最も困難な課題を、我々にぶつけてほしい」と述べ、スピーチを締めくくった。

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この記事の著者

小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)

EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。

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