ソブリンクラウドは“自社”に本当に必要か?「宝の持ち腐れ」にしない判断ポイントと情シスに課された使命
従来のクラウドよりコスト高? どこまでソブリンクラウドに乗せるべき? 専門家が解説
混迷を極める国際情勢下、各国はITインフラ戦略において「主権(Sovereignty)」の確保を重視し始めている。そんな中、データ主権を確保しつつ、パブリッククラウドの利便性も享受できる新たな手段として注目を集める「ソブリンクラウド」だが、実際のところ「これは使える」と“ピンときている”日本企業は現時点でどれほどいるのだろうか。PwC Japan有限責任監査法人(以下、PwC Japan監査法人)の専門家への取材を通して、ソブリンクラウドに対する日本企業の「先入観」とベンダー依存体質が阻むデータ主権の課題、そしてそれを乗り越えるための具体策が見えてきた。
高まる地政学リスク……世界中で「主権」の確保が喫緊の課題に
近年、長らく続いた米国を中心とする安全保障や自由貿易体制に基づく「自由で開かれた国際秩序」が揺らいでおり、国際政治は大きな転換期に差し掛かっている。PwCが2025年12月に公開した「2026年地政学リスク展望」においても、米国の国際的指導力に基づく安定した時代が終わりを迎えつつあることが指摘されている。
2026年1月に開催された最新のダボス会議では、昨今の地政学リスクが高い状況下、ミドルパワーや小国がいかにして国家の主権を守るかという文脈において、「Sovereignty(ソブリニティ:主権)」という言葉が主要なテーマとして頻繁に議論されるようになった。
このような地政学リスクの波は、日本企業にとっても決して対岸の火事ではない。PwCが2026年2月に公開した「第29回世界CEO意識調査(日本分析版)」によれば、今後12ヵ月間で自社に悪影響を及ぼす大きな脅威として、日本のCEOの48%が「サイバーリスク」をトップに挙げているが、それに次いで「高度なスキルを持つ従業員の確保」が38%、「革新的テクノロジー」と「地政学的対立」がともに27%と同率で並んでいる。
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こうした状況下、企業データやシステムを地政学的対立の脅威から守りつつ、クラウドやAIといった最新技術も活用して競争力を高めるための手段として浮上してきたのが「ソブリンクラウド」だ。従来のオンプレミスとパブリッククラウドに次ぐIT基盤の新たな選択肢として、日本でも少しずつ注目が集まっている。
ソブリンクラウドとは、先進的なクラウドテクノロジーの恩恵を享受しつつも、データ主権や運用主権を自国内に確保できるクラウド環境を指す。これを導入・活用する最大のメリットについて、PwC Japan監査法人 リスク・アシュアランス部 シニアマネージャーを務める平井彰氏は「インフラの法的支配権が日本国内で完結するため、日本法以外の干渉を受け付けないこと」を挙げる。
「これまでの自由で開かれた国際秩序は、転換期を迎えています。国家や企業が主権をどう守るかが問われる中、ソブリンクラウドはパブリッククラウドの先進的なテクノロジーと、強固なデータ主権・運用主権の確保を高い次元で両立できる新たな選択肢として注目を集めています」(平井氏)
サプライチェーンリスクにも貢献? ソブリンクラウドの可能性
平井氏によれば、日本国内において昨今ソブリンクラウドのニーズが高まりつつある背景には、政府による経済安全保障政策の強化があるという。その代表的な施策の1つが、2022年5月に成立した「経済安全保障推進法」だ。
この法律は「重要物資の安定供給」「基幹インフラの安全性・信頼性確保」「先端重要技術開発」「機微技術の流出防止」という4つの柱から成り立つ。電気、ガス、水道、金融、情報通信といった14業種を担う「特定社会基盤事業者」に対して、重要設備の導入や維持管理における委託先の事前審査が義務付けられるなど、基幹インフラ役務の安定的な提供に関する制度が開始されている。さらに、セキュリティ・クリアランス制度や能動的サイバー防御の強化に関する法制度など、サイバーセキュリティと経済安全保障を紐づける関連制度も整備が進んでいる。
これらの規制に対応するためには、システムの構成機器から末端の委託先に至るまで、サプライチェーン全体を網羅的に管理・把握する必要がある。しかし、従来のオンプレミスシステムで情報を収集するとなると、ステークホルダーが非常に多く存在するため、膨大な工数がかかってしまう。
また、外資系のクラウドサービスをインフラに利用している場合、クラウド事業者が当局から求められるレベルの情報を提供してくれないケースや、海外企業が委託先に含まれていることから制度対応に必要な役員情報の提出を拒まれるといったケースも事例として見られる。
ここで、ソブリンクラウドが有効な解決策になりうるという。平井氏はこの点について「運用に関連する要員を日本国籍保持者に限定していることが多いため、当局への説明もスムーズに運びます。また構成機器や委託先を含め、クラウド事業者がワンストップで管理・情報収集を手配してくれるため、制度対応にかかる工数も低減できるでしょう」と説明する。
とはいえ、日本国内におけるソブリンクラウドの普及はまだ緒に就いたばかりなのが実情だ。実際のところ、日本企業はこのソブリンクラウドをどこまで理解し、そしてどの程度のニーズが見込まれるのだろうか。
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吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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