オムロン発・81社が参加する「経理を面ろくする会(経面会)」 20年以上つづく異色の経理コミュニティ
「面ろい」の連鎖反応が作る未来の経理業務 20年以上も熱量高く活動してきた経面会のつながり
テーマは「面ろい」で決める 20年以上も活動できる秘訣とは
20年以上も続いてきた経面会とあって、これまで多くのテーマを取り上げてきた。場所もオムロンに限らずメンバー企業の持ち回りで、その会のテーマに沿って最適な会場を決めている。大抵の場合、定例会後の懇親会で次回のテーマと場所が決まるという。もちろん、懇親会のノリと勢いだけで決めているわけではない。「こんなことを知りたいね」と盛り上がった時点で、参加者のテーマへの関心はピークに達している。佐々木氏は「計画的ではないが、懇親会で決まるということは本当にやりたいテーマ。義務感から選ぶとこうはならない」と話す。盛り上がりの熱が冷めないうちに、次回開催を案内しているとした。
また、毎回ではないが、見学イベントとセットで定例会を実施していることもユニークな点だ。たとえば、2008年8月に「原価計算」をテーマに取り上げた回では、サントリーが会場を提供した。通常、製品を生産すると、完成時点から価値が下がっていくものだが、長期間の熟成が必要なウイスキーには当てはまらない。樽の中で熟成中、少しずつ量も減っていく。では、樽の中のウイスキーの在庫評価をどのように計算するか。このときは山崎蒸留所を見学してウイスキーを飲み比べた後、原価計算方法について情報交換を行っている。
直近では、2025年12月に阪急阪神不動産が運営に参画する神戸須磨シーワールドの見学イベントとともに、定例会を実施した。2024年6月に、神戸須磨シーワールドに「オルカスタディアム」がオープン。日本国内でシャチに会える3つ目の施設になったことが懇親会の話題に上る。「シャチの減価償却期間は何年か?(答えは8年)」など、経理らしいツボは押さえつつ、その後の定例会では、「グローバルガバナンスの課題と対応」について、情報交換を行った。
次回は2026年5月頃の実施を予定している。「懇親会をするにしても、テーマがあったほうがいい。テーマに関連するメンバーが集まり、それぞれが自社の状況を共有した後の懇親会では、さらに深い内容で会話できる」と佐々木氏。たとえば、業績見通しを出す際の為替レートの設定方法など、ちょっとしたことを気軽に聞ける場は案外ない。ROIC経営のような大きなテーマであれば、個別に訪問して教えを請うことも可能だが、前提になる関係性があって初めてできることだ。オープンな情報交換ができる場を提供しつづけてきたのは、佐々木氏の大きな功績と言える。
定例会では参加者全員が発言 全員がオープンな意識で意見交換
定例会でも、随所で「面ろく」するための工夫が凝らされている。一般的なコミュニティ活動では、テーマごとに講師役になったメンバーがレクチャーを行い、その後に質疑応答という形式が一般的だろう。経面会の場合、話を聞きに来るだけの人はまったくいない。そのテーマに関心があり、問題意識のある人が参加するため、参加者は常に変わる。たとえば、「今回は僕が参加する」「参加させたい担当者がいるので、案内状を転送する」など、各社の経理部には次の参加者にバトンを渡すような雰囲気も醸成されているという。そして、会則にあるように、参加者には積極的に意見すること、他の参加者の発言を促すことが奨励されている。
これまで、全58回の司会はすべて佐々木氏が務めてきた。挨拶後に参加者全員の自己紹介、テーマに関する発表と続く。各社に発表の機会はあるが、発表者以外が一言も発さないままに終わらないよう、参加者全員の自己紹介タイムを設定している。これは初めて参加する人の緊張を和らげ、話しやすい雰囲気を作るための工夫でもあるという。各社の発表時間はそれぞれ10分、平均8〜10社が参加するため約2時間はかかる。資料を使う場合も、形式は自由だ。会則に「機密情報は会以外の場には漏らさない」とある以上、全員がこれを守る。質疑応答の時間を設けながら、より深い話は懇親会に移ってからのことが多いという。
「オープンな感覚で参加してくれるため、運営自体もやりやすい」と佐々木氏。「若い人たちには、経営や事業に貢献しているという意識をもってもらいたいが、参加時点で高い視座をもっている必要はない」と続ける。
若手人材の育成にも 未来のCFO輩出を目指した「経面塾」
上司から「経営への貢献」と言われても、発奮して仕事への向き合い方が変化することはおそらくない。けれども、他社の人たちが集まる場に来ると、自分も変わらないといけないと刺激を受け、行動が変わる。そのきっかけを作るのが定例会だ。
また、人材育成という意味では、経面会とは別に「経面塾」も運営している。経面会では、回ごとにテーマが異なる関係でメンバーの入れ替わりが激しいため、人材育成には別の仕組みが必要と考え、2014年に立ち上げたのが経面塾である。スピンオフとして形成された経面塾では、経面会のメンバー企業から若手を募集し、チーム単位で半年間をかけて議論を深めていく。
8期目を迎えた最新の活動テーマでは、「20年後のCFOには何が求められるか」を取り上げた。経面会のメンバーが塾生の活動をサポートしており、2026年2月の最終報告会では、サポーターだった島津製作所のCFOが最終講評を担当したという。毎年、最終報告会で優勝したチームは、メンバー全員の写真と発表内容が会計専門誌『経営財務』(株式会社税務研究会)に掲載されるため、上司や同僚に成果を知ってもらうことをモチベーションにも頑張るようだ。なお、第8期の最終報告会では、全部で6チームが発表を行った。
この経面塾の運営をつづける中で、将来的にCFOとなる人が出てくるだろう。「自ら考え、未来を切り拓く。グローバルで勝つための企業に、自分たちがどのように貢献するかを考えてくれるようになればうれしい」と佐々木氏は語った。
この記事は参考になりましたか?
- 冨永裕子の「エンタープライズIT」アナリシス連載記事一覧
-
- Informatica買収で何が変わった?セールスフォースが描く「Agentic Ente...
- オムロン発・81社が参加する「経理を面ろくする会(経面会)」 20年以上つづく異色の経理コ...
- AIに浮足立つ今こそ考えたいデータマネジメントの意義──“当たり前にデータを使える状態”を...
- この記事の著者
-
冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
