クラウド普及のカギを握る標準化動向
IT部門が自社のITインフラにおいてクラウド・コンピューティングの適用を拡大していく過程では、プライベート・クラウドを含むオンプレミス(自社運用)システムとパブリック・クラウド、あるいは複数のパブリック・クラウド間での連携・統合をいかにして図っていくのかや、クラウド環境およびハイブリッド環境におけるセキュリティ・レベルをいかにして確保するのかという難題が待ち受けている。
ご存じのように、現在のところデファクト・スタンダードと呼べるようなクラウド・サービスに関する国際的な標準規格はまだ存在しない。そのため、各クラウド・サービスで提供されているAPIやデータのエクスポート機能や、別途導入したEAIツールの機能などを利用して連携・統合を図っていくことが現実的な解決策となるが、今後、クラウド・サービスの導入が進んでいくにつれて、その作業は複雑さを増し非常にやっかいなものになるのは明らかだ。
このようなユーザー側にかかる負荷を軽減して、クラウドをより広範に普及させていくために、各国のクラウド・ベンダー、政府、大学などがそれぞれにアライアンスを組んで、クラウド関連技術の仕様/規格の策定・標準化に取り組んでいる。以下では、国内外の主要な業界団体やコミュニティをピックアップし、それぞれの取り組みを紹介する。
マニュフェスト「クラウドの6原則」を掲げて啓蒙する「OCM」
2009年3月、欧米の大手ITベンダー数社が署名を寄せたクラウドのオープン化に関するマニュフェスト(宣言文)「Open Cloud Manifesto(OCM)」がWeb上に公開された。IBM、シスコシステムズ、SAP、EMC、ヴイエムウェア、ノベル、レッドハット、サン・マイクロシステムズ(現オラクルの事業部門)、AT&Tなどが賛同するこのマニュフェストには、表1に示す6つの原則が活動の理念として提示されている。
同マニュフェストの公開時、賛同企業の中にクラウド市場の有力ベンダーであるマイクロソフトやグーグル、アマゾン・ドットコムの社名がないことが話題になったが、OCMによれば、公開後2カ月で250の企業・組織が同マニュフェストへの賛同を表明し、その数は現時点(2010年12月中旬)で400社を超えており、OCMが示した「オープン・クラウド」の基本的な考え方は広範に浸透したと言える。
- クラウド事業者は、オープンなコラボレーションと標準の適切な利用により、クラウド適用の課題に協力して取り組む必要がある。
- クラウド事業者は、可能なかぎり、既存の標準を利用/適用する必要がある。また、既存の標準化団体ですでに行われた標準策定作業を重複して行ったり、再策定したりする必要はない。
- 新しい標準(または既存の標準の修正)が必要な場合は、標準の乱立を避けるために賢明かつ実用的な態度を取る必要がある。標準は技術革新を促進するものであり、妨げるものであってはならない。
- オープンなクラウドに向けたあらゆるコミュニティ活動は、顧客のニーズに基づき推進されるべきであり、クラウド事業者の技術的な必要性にのみ基づいて進められるべきではない。また、テストや検証も、実際の顧客の要件に基づいて行われるべきである。
- クラウド関連の標準化団体、支持団体、コミュニティは、互いの活動が矛盾または重複しないよう協業をし、調和を保つ必要がある。
- クラウド事業者は、市場での立場を利用して特定のプラットフォームに顧客を囲い込んで、事業者の選択肢を狭めてはならない 。
出典:クラウド・ビジネス・アライアンス
クラウド・サービスの相互運用性向上のための統合インタフェース策定に取り組む「CCIF」
■ Cloud Computing Interoperability Forum (CCIF)
Cloud Computing Interoperability Forum(CCIF)は、クラウド・サービスの相互運用性向上を前面に掲げて2009年4月に発足した団体。活動を主導するのはカナダのIaaS(Infrastructure as a Service)ベンダーのエコナリーで、シスコやインテル、サン、IBM、RSAセキュリティ、クラウドキャンプなどが同団体のスポンサーとして名を連ねている。
同団体での活動として、統合クラウド・インタフェースの仕様策定を目指す「Unified Cloud Interface Project」が公開されているが、文書の更新状況を見るかぎり、現在、作業はストップしている模様だ。
DMTFの一作業部会として、仮想化/クラウド環境の運用管理性向上を追求する「OCSI」
■Open Cloud Standards Incubator(OCSI)
OCSIは、IT運用管理技術の業界団体Distributed Management Task Force(DMTF)において2009年4月に設立された作業部会で、仮想化およびIaaSレイヤでの相互運用性の向上をメインに取り組んでいる。
同団体の幹事企業は、インテル、マイクロソフト、オラクル、AMD、CA Technologies、デル、HP、EMC、IBM、シスコシステムズ、シトリックス・システムズ、ヴイエムウェア、富士通、日立製作所などで、大手システム/仮想化ソフトウェア・ベンダー色が強いと言える。
産学協同の大規模プロジェクトで「オープン・クラウド」の実証実験を進める「OCC」
Open Cloud Consortium(OCC)は2009年、米国イリノイ大学シカゴ校やシスコシステムズ、ヤフーなどの企業・組織によって設立された団体で、複数のクラウド・サービスを利用する際の相互接続性の向上をメインの目的に活動を行っている。
同団体の最大の特徴は、「Open Cloud Testbed」(図1)と呼ばれる実証テスト環境にあり、イリノイ大学シカゴ校、カリフォルニア電信・情報技術研究所(Calit2)、ジョーンズ・ホプキンス大学の各データセンターにある合計4ラックのサーバを10ギガビットEthernetで結んで、広域クラウド・ネットワークの演算性能ベンチマークをはじめとする各種の実証実験を行っている。
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