後述しますが、この裁判は若干、ベンダ側の”無理筋”に見えてしまうのですが、やはり裁判などを起こされてしまうと、ユーザ側にも有形無形の損害が生じます。そうしたことにならないよう、ユーザ側として気を付けておきたいこと、逆にベンダの方には、この事件のような保守契約においてユーザから愛想を尽かされないために行っておきたいことについて考えてみたいと思います。
保守契約の延長を拒絶されたベンダが損害賠償を求めた裁判
(東京地方裁判所 平成25年7月10日判決より)
あるユーザ企業が、自社の人材紹介サイトと求人サイト保守作業をベンダに依頼した。契約期間は各々1か月と3か月という短期間のものだったが、このベンダは、これまでも、これらのサイトの保守を継続して行っており、本契約も、それを延長ものだった。また、契約書には、この契約についても、満了前に双方から申し出がなければ、契約は自動継続されることも取り決められていた。
ところが、この保守作業で改修したプログラムには複数の不具合があったこと等、ユーザ企業は保守ベンダの作業品質に不満を覚え、今後は、当該契約の更新を行わない旨を通知した。
本契約の終了後も、これらのサイトの保守契約は継続されると考えていたベンダは、契約の更新拒絶は不法行為に当たり,少なくとも将来1年分の利益は得られたとして,約2660万円の損害賠償等を請求した。
皆さんはこの事件の概要を読んで、どのようにお感じでしょうか?正直なところ、私はベンダがこの訴えを提起したこと自体に首を捻らざるを得ませんでした。期間中の契約解除ならまだしも、ベンダの作業品質に不満があるので契約を更新しないことのどこが不法行為にあたるのか、理解に苦しむというのが私の率直な感想です。
判決文を見る限り、ベンダが不法行為を訴える理由は、
①この契約が、当然に継続が期待される保護すべき契約であること
②更新拒絶の理由・手続・態様が信義則に違反すること
この2点のようです。
①についてのベンダの言い分は、今まで長く保守作業をさせてもらって来たので、当社(ベンダ)は、当然に、継続を期待していた。これを突然、一方的に解除されることは、当社に重大な不利益を被らせるものであり、これは簡単には契約延長の拒絶をすることのできない保護されるべき契約だということのようです。
また、②についていえば、保守開発において作成したプログラムに不具合があったことは認めるが、そもそもソフトウェアには不具合の混入は不可避のものであり、契約延長拒絶の理由にはならないとするものです。
しかし、正直、この言い分には無理があります。裁判所もこのベンダの言い分を入れることなく、以下のような判決を下しました。
ベンダの作業品質に不満があれば、契約延長の拒否はユーザの自由だが・・・
(東京地方裁判所 平成25年7月10日判決より<つづき>)
①について
本契約については,それぞれ運用業務委託期間を1か月又は3か月と定めて個別に契約書が作成され,(中略)(ベンダが) 期間満了後に当然に継続されることを事実上期待していたとしても,もともと本件各個別契約は期間の定めのある契約であるから,約定期間満了により終了するのが原則であり,(中略)契約継続についてのベンダの期待は法的な保護に値するものではない。
②について
ベンダにおいて,ユーザ企業の要求するような水準のサービスを (中略) 提供することができないときは,ユーザ企業には本件各個別契約を継続するか否かを決定する自由があるのであり,(中略)企業間の取引として,何ら信義則に反するものではないというべきである。
契約書に定められた期限が来たとき、それまでのベンダの作業に不満があるならユーザは契約の継続を解除できるという、至極もっともな判決でした。正直、こんな訴訟を起こされてその解決の為に多くの時間と費用、それに人手を費やしたユーザ企業はいい迷惑だったと同情せざるを得ない気持ちにさえなってしまいます。
しかし、そうは言っても、実際にこうして裁判を起こされることもあるわけですから、ユーザ側もベンダとの関係を断ち切るには注意が必要ということでしょう。