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ビッグデータのフュージョンに人類未踏の世界がある―東京大学喜連川優氏インタビュー

2011/12/19 07:00

「ビッグデータ」という言葉がバズワードとして1人歩きを始めつつある昨今、増え続ける情報を前にして、我々はどのような軸からビッグデータと向かい合い、ビジネスをドライブしていけばよいのだろうか。最近まで文部科学省の「情報爆発プロジェクト」や経済産業省の「情報大航海」など情報戦略に関する国家プロジェクトを牽引し、現在、最先端研究開発支援プログラムを推進中の東京大学生産技術研究所の喜連川優氏に、現在のビッグデータを取り巻く状況と将来の展望についてお話を伺った。

ビッグデータ時代は人類未体験ゾーン

東京大学生産技術研究所 教授 喜連川 優氏
株東京大学生産技術研究所 教授 喜連川 優氏

―「ビッグデータ」という言葉がIT業界の大きなトレンドとなっています。2004年から「情報爆発プロジェクト」を率いてきた喜連川先生の目から見て、現在のビッグデータを取り巻く状況はどのように映るでしょうか。

  確かに、IT系のバズワードではありますが、大変分かりやすい形容詞と名詞を組み合わせた、非常にシンプルな言葉ですね。他のバズワードと同様に消費されていく言葉の1つかもしれませんが、ようやく時代がこのようなシンプルな表現で情報社会を語れるほど、成熟してきたことの表れかもしれません。

 2004年に申請し、2005年からスタートした「情報爆発プロジェクト」では、21 世紀に入り人類が生み出す情報量が急激に増大するようになった現象を「情報爆発」と捉え、情報爆発から派生する多様な課題を自ら明確化すると共に、それらに立ち向かい1つずつそのソリューションを考えて行こうというプロジェクトでした。ですから、具体的な目標が事前にあったわけではありません。

 例えば、「世界有数のグリッドコンピューティングの基盤をつくろう」というプロジェクトも同時期に実施されていましたが、この場合には、ゴールのイメージは非常にしやすい。情報爆発プロジェクトには、情報系だけでなく文系も含め500名以上の研究者が参画しましたが、人類が今までに体験したことのない、初めて遭遇する情報爆発という現象に対して、どう立ち向かうべきかを皆で模索しながら研究を進めてきた次第です。このような研究のスタイルは、従来の情報系のプロジェクトにはなく、戸惑いが大きかったのは事実ですが、全く新しいことを考えられるチャンスかもしれないと、戸惑いと裏腹に、ワクワクしながら研究を進めてきました。

 当時から情報が爆発的に増えているという現象自体については、同様に感じていた方々が少なからずおられたと思います。しかし、大きなプロジェクトとして情報爆発に備えるべく本格的な研究に着手したのは、我々の知る限りそれ以前には世界的にもなかったと思います。最近になってビッグデータというキーワードが生まれてきたわけですが、私自身は特段驚くこともなく、こうした今の状況を極めて自然体で捉えています。

―ビッグデータ時代は人類がいままで体験していない時代、というのは非常に興味深い指摘ですね。

 例えば、ひとりの人間が1カ月で読むことができる本の冊数を考えてみてください。非常に少ないと思いませんか。ところが現在では、たった1日に、ひとりの人間では一生かかっても到底読みこなせない膨大な情報が溢れています。自分がよく知っている分野ですら日々生まれてくる情報を咀嚼するのは困難ですから、もしその中から自分が欲しい情報だけをピタリと探し当てることができたら、とてもありがたいことです。もちろん「探す」という行為は、昔から行っている極めて当たり前の作業で既に色々な手法が開発されています。ただ、これほど膨大なデータが出てくると、そもそも、情報が来るたびに事前に整理しておいて必要になったときに備えるということが容易にはできなくなり、全く新しい視点が必要になります。そういう意味で、ビッグデータという言葉は非常にポジティブな響き、チャンスを感じさせる響きをもっていますね。

―ビッグデータというと、役に立たない情報のほうが多いのでは、という指摘もありますが。

 役に立つか立たないかどうかは、使う人に依存するということも忘れてはいけません。非常に多くの人々が注目する情報もありますが、ほんの一握りの人にとっては非常に有用なデータというものもあります。所謂、ロングテールです。これまでは、前者にしか興味が向けられてこなかったわけですが、現在はクラウドの普及などにより強力に情報を活用する基盤が整ってきています。時代と環境がビッグデータ活用に向けて整ってきた状態に入ったといえるでしょう。

―日本企業のビッグデータ活用の状況についてはどうご覧になっていますか。

 私が見る限り、日本という国は「データが重要なアセット(資産)である」という考え方がきわめて希薄です。データウェアハウジングの規模を見ても、海外の企業と比べて非常に小さい。データを価値に転換するという考え方をこれまでほとんどしてこなかったと言っていいでしょう。ですが、最近はAmazonやeBayなどが膨大なデータの解析を駆使している事例が紹介されるようになり、日本企業も考え方が変わりつつあるのかもしれません。AmazonもeBayもリーマンショックの影響を受けながら、瞬間的には業績が凹んだものの、ほとんど影響を受けずに成長を続けている。日本企業が軒並み疲弊した中、なぜ彼らはビジネスを伸ばすことができたのか、それはデータに対する価値観が高く、同時に、高度な分析手腕を有しているからでしょう。このことに気づき始めた日本企業がどう変わっていくか、期待したいところです。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。


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著者プロフィール

  • 五味明子(ゴミ アキコ)

    IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。 Twitter(@g3akk)やFacebook(...

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