
企業経営にとって欠かせない存在であるERP(基幹システム)。その代表格といえば、SAPを思い浮かべる人も多いだろう。ドイツに本社を置き、130ヵ国以上に拠点を置くグローバル企業の同社は、2010年代以降、システム開発・導入の方針として「Fit to Standard」「Keep the Core Clean」を掲げてクライアント企業のDXを推進している。名だたる企業のDX戦略に携わってきたSAPは、技術革新が加速する激動の環境下で変革を実現するために何を重視しているのか。SAPジャパン バイスプレジデント Enterprise Cloud事業統括の稲垣利明氏に、テックタッチ代表取締役CEO 井無田仲氏が話を聞いた。
“イノベーションのジレンマ”を乗り越え、変化を積極的に受け入れる姿勢へと変化
井無田仲氏(以下、井無田):今回はグローバルでDXを推進するSAPの取り組みが聞けるため、楽しみにしています。まずは、稲垣さんのご経歴を教えていただけますか。
稲垣利明氏(以下、稲垣):私のキャリアはSAP一筋、2024年4月で22年目を迎えました。最初の10年はERPの営業を担当し、その後いくつかの部門で営業マネージャーを務めました。2015年からは人事管理システム「SAP SuccessFactors」の担当になり、ここで初めてクラウドサービスを経験しました。2022年からSAPにおけるクラウドサービスの6~7割を占める、Enterprise Cloud事業を統括しています。
井無田:稲垣さんは、2015年頃からクラウド事業に携わっていらっしゃるのですね。これは手を挙げて異動されたのか、それともジョブローテーションによるものでしょうか。
稲垣:SAPではジョブローテーションはなく、これまでの異動はすべてジョブポスティング(社内公募)に応募した結果です。
井無田:クラウド事業にチャレンジしようと思われたのは、「これからの時代はクラウドだ」という機運を感じ取られたからなのでしょうか。
稲垣:まさしくその通りですね。2024年で創業52年になるSAPは、長年オンプレミス型のERPを提供してきました。ドイツ企業らしいクラフトマンシップを貫き、すべてを自社で開発しているからこその信頼性の高さ、堅牢さが強みです。しかし、2000年代に入るとSaaS型(クラウド型)のサービスが徐々に普及していき、時代に取り残されていると感じる時期がありました。

井無田:強い既存事業をもっているがゆえに新規事業に踏み出せない、いわゆる「イノベーションのジレンマ」の状態だった、と。
稲垣:そうです。イノベーションが生まれにくい典型事例として当社が書籍で取り上げられたこともあるほどでしたが、2010年頃にグローバルで経営方針を刷新しました。そのなかで、ソリューションの多角化とあわせてクラウド化をキーワードとして掲げ、クラウドサービスのスタートアップ企業を立て続けにM&Aしていったのです。そうした流れの中で「本腰を入れてクラウドを勉強してみよう」と買収直後の部門に手を挙げたのが、キャリアの転機になりました。
井無田:なるほど、稲垣さんはテクノロジーの進化にともなったSAPの事業変革を最前線で経験されているのですね。だからこそ聞いてみたいのですが、基幹システムのあり方は今後どのように変化していくとお考えでしょうか。
稲垣:今まさに転換点を迎えていると思っています。これまで、基幹システムに求められていたのは、安心・安全・堅牢であること。近年はそれに加えてDXを実現するために、ERPに蓄積された膨大なデータを活用するためのサポートなども求められています。加えて、今後は生成AIのような新しい技術を積極的に取り入れていきたいというクライアントのニーズも高まるでしょう。当社としても、こうした新しいテクノロジーを積極的に活用することで、ERPで提供できる価値のブレイクスルーを起こしたいと考えています。

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井無田 仲(イムタ ナカ)
テックタッチ株式会社 代表取締役慶應義塾大学法学部、コロンビア大学MBA卒
2003年から2011年までドイツ証券、新生銀行にて企業の資金調達/M&A助言業務に従事後、ユナイテッド社で事業責任者、米国子会社代表などを歴任し大規模サービスの開発・グロースなどを手がける。「ITリテラシーがいらなくなる...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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中釜 由起子(ナカガマ ユキコ)
テックタッチ株式会社 Head of PR中央大学法学部卒。2005年から2019年まで朝日新聞社で記者・新規事業担当、「telling,」創刊編集長などを務める。株式会社ジーニーで広報・ブランディング・マーケティング等の責任者を経て2023年にテックタッチへ。日本のDX推進をアシストするシステム利...
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