2020年のコロナ禍以降、最も大きな影響を受けた業界の一つに観光業が挙げられるだろう。特に、日本を代表する観光立県・沖縄県においてその影響は顕著であった。沖縄の象徴的観光スポットである「美ら海水族館」や「首里城」を運営する沖縄美ら島財団では、コロナ禍で「誰もいなくなった水族館」を見て感じた危機感から、DXの取り組みを本格化させてきたという。今では、データドリブンな経営を実現するための基盤整備に取り組んでいる。660名の職員を抱える同財団の情報システム部門 神里直氏らに取り組みの詳細を聞いた。
コロナ禍が変えた“観光立県”の意識
沖縄美ら島財団は、沖縄美ら海水族館や首里城公園をはじめとする県内有数の観光施設を運営し、約660名の職員を擁する。同財団の情報システム部門に所属する神里直氏は、7名体制の情報システム部門で全施設のITインフラを総括している。各施設の情報システム関連の整備は情報システム部門が総括し、各部門のメンバーと共にDXプロジェクトも推進する体制を取っている。
DXの契機となったのは2020年からのコロナ禍だったと神里氏は話す。「沖縄は観光業に支えられていますが、飛行機が制限されたことで観光客が激減しました。誰もいなくなった水族館を見て、職員は悲しみと施設運営への不安を感じていました」と当時の状況を語る。
コロナの影響は数字にも現れ、2018年頃の観光客1000万人超のピークから、コロナ禍では3割程度まで減少となった。しかし、神里氏はこの危機をむしろ“変革の機会”と捉えた。「情報システム部門としては、この期間で何かを変えて、コロナ禍が明けた後にお客さんをより良い環境で迎えたいと感じていました」と振り返る。
DXの必要性自体はコロナ禍前から認識してはいたものの、なかなか着手できなかったという。そこには沖縄特有の事情があった。
「沖縄は観光資源が豊富で認知度も高いので、これまでは広告を売ったり、マーケティングを積極的に行ったりしなくてもお客さんが来てくれたというのが実情でした。しかし、パンデミックを機にその前提が崩れてしまった。これまでの受け身的な姿勢ではなく、データを活用した事業運営を進めていきたいと考えました」(神里氏)
こうした危機感から、2023年度に10人程度のDXプロジェクトチームを発足。まず着手したのは、紙文書の稟議システムやテレワーク環境整備などの業務デジタル化だった。
この間、神里氏は沖縄県主催のDX人材育成講座に参加した際にデータ活用の重要性を実感し、「Microsoft Power BI」や「Tableau」といったBIツールを試していたという。「データ活用がDXの本質だ」と感じた同氏は、財団の管理職に組織的なデータ活用の取り組みを提案し、組織として本格的に動き出すこととなった。
しかし、新たな課題に直面する。アナログ業務をデジタル化したことで、データはたまってきたものの、データ自体が各部署に散在していて、集約することが難しかったのだ。こうしたデータを一元管理すべく、神里氏率いる情報システム部門が主体でデータ統合ツールの検討を始めていった。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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