スケールに賭けていた──生成AIブームの前夜
Altman氏がCEOに復職後、再びCTOとしてAI製品開発を統括するMurati氏が提携先であるQualtricsのイベント「X4 Summit」(5月1日~3日、米ソルトレークで開催)にゲスト出演し、QualtricsのAI戦略プレジデントに就任したばかりのGurdeep Singh Pall氏と対談した。Pall氏は、約34年にわたりMicrosoftに勤務し、直近ではビジネスAI・プロダクトインキュベーションのトップとしてOpenAIとの提携などに関わった人物だ。旧知の仲ともいえるMurati氏とPall氏は、生成AIのブームやAGI、人類への影響などをテーマに語った。本稿では、その対談の一部をお送りする。
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ChatGPTなどが生成ブームを起こしたが、当事者のMurati氏はこのブームをどう見ているのか。Pall氏が「予想外の出来事はあったか」と尋ねると、Murati氏は、『テクノロジー』『社会・経済』『規制』の3つの面で自身が感じている変化を説明した。
まず、テクノロジーの観点では、「私たちはスケールを信じ、賭けていた」とMurati氏。大規模言語モデルに大量の処理能力を持たせ、大量のデータを学習させるとモデルがパワフルになり、さまざまなドメインで多くのことが可能になるという賭け、これを統計的に予測するのと現実世界で能力を発揮しているのを見ることでは違う体験だったと振り返る。
「スケールのパラダイムが現実に機能している様子を見ると、魔法のような驚きを感じた。GPT-3からGPT-4にアップグレードしたことで、さまざまな領域で推論能力がアップしている。次のモデルでも同じようなことが起こるだろう」と予想した(対談後、OpenAIは5月13日に最新モデル「GPT-4o」を発表している)。
また、Murati氏は「(ChatGPTなどの生成AIが)あっという間に社会へと溶け込み、経済にも大きな影響を与えていることに驚いている」とも述べる。「電力とインターネットがあれば、GPT-3.5やGPT-4と同水準のモデルを無料あるいは少額で利用できるようになった」と話す。AIの歴史は新しいものではないが、生成AIという形でOpenAIが仕掛けたタイミングは絶妙だったということだろう。実際、ChatGPTはリリースから2ヵ月で月間アクティブユーザー1億人に達しており、歴史上最も急速に成長したコンシューマーアプリといわれている。
そしてブームとなった生成AIは、社会・経済へと一定のインパクトを与えており、各国政府も規制の在り方などを模索している。Murati氏は以前からAI規制に好意的な立場を示しており、この日も「多くの政府が“AIセキュリティ”に取り組む組織を立ち上げ、AIを便利で安全なものにするために規制がどうあるべきかを考え始めている。これは素晴らしいことだ」と言及した。