新たなシステム要件にはクラウド配備モデルが適している
SoR(System of Record)は、法人や個人事業主の事業活動(商取引)や公的機関における公的サービス提供活動の記録や処理を行う、いわゆるミッションクリティカルな基幹業務システムであり、可用性(アベイラビリティ)が重要なシステム要件の1つになっている。
一方、国内エンタープライズインフラ市場全体のクラウド化の動きは、SoRにおいても浸透してきている。デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展が、SoR向けエンタープライズインフラにもたらす新たなシステム要件として、「他システムとの接続性」「新たなビジネストランザクション対応に対する俊敏性」が挙げられてきていることが、SoRのクラウド化の背景にあるとIDCは考えている。これらのシステム要件を実現するには、クラウドといった配備モデルが適しているからだという。
国内SoR向けエンタープライズインフラ市場は更新需要に支えられており、市場全体の支出額は、2018年は前年並みの規模になるものの、2019年~2022年は縮小傾向をたどるとIDCではみている。2022年の国内SoR向けエンタープライズインフラ市場は2,385億5,700万円、2017年~2022年の5年間における年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)はマイナス3.2%としている。
アベイラビリティレベル別、配備モデル別に見るトラディショナルとクラウド
国内SoR向けエンタープライズインフラ市場をアベイラビリティレベル別、配備モデル別に見ると、2022年の国内AL1-3市場(Availability Level 1-3市場)は、トラディショナル(AL1-3 SoR on Traditional)が1,398億8,200万円でCAGRはマイナス5.0%、クラウド(AL1-3 SoR on Cloud)が549億6,200万円でCAGRはプラス6.1%である。
また、同市場における2022年のトラディショナルとクラウドの構成比は、トラディショナルが2017年の81.5%から9.7ポイント低下して71.8%に、クラウドは逆に18.5%から9.7ポイント上昇して28.2%となる。
AL4(Availability Level 4市場)は、トラディショナル(AL4 SoR on Traditional)が422億6,100万円でCAGRはマイナス6.2%、クラウド(AL4 SoR on Cloud)が14億5,200万円でCAGRはプラス3.9%。また、同市場における2022年のトラディショナルとクラウドの構成比は、トラディショナルが2017年の98.0%から1.3ポイント低下して96.7%に、クラウドは逆に2.0%から1.3ポイント上昇して3.3%となる。
「AL1-3 SoR on Cloud」「AL4 SoR on Cloud」が成長セグメントになる
CAGRがプラスであるセグメントを成長セグメントと捉えるとすれば、成長セグメントに該当するのはAL1-3 SoR on CloudとAL4 SoR on Cloudの2つのセグメント。この2つのセグメントの成長要因は、基本的に各市場におけるトラディショナルからクラウドへのシフトになるが、それぞれのセグメントの特性は大きく異なる。
AL1-3市場は、オープン仕様の製品が多く占めており、ベンダー独自仕様製品が大半を占めるAL4市場と比較すると、トラディショナルからクラウドへのシフトが進むとIDCはみている。また、オープン仕様の製品は、仕様の差別化による競争優位性が発揮しにくく、AL1-3 SoR on Cloudでは、クラウドサービスベンダーとの新たな競合が発生するため、他社競合が一番激しいセグメントになる。
一方、AL4市場は、特に高いアベイラビリティが求められており、クラウド対応が進むオープン仕様のAL4製品が少ないことから、トラディショナルからクラウドへのシフトは限定的になるとみている。しかし、今後、DXの推進とともに、エンタープライズインフラの接続性と俊敏性に対するユーザーのニーズが高まってくると、AL4 SoR on Cloudへのシフトが加速する可能性があるとIDCは考えている。
IDC Japan エンタープライズインフラストラクチャ リサーチマネージャーである下河邊雅行氏は、「エンタープライズインフラベンダーは、SoR向けエンタープライズインフラ市場のアベイラビリティレベル別、配備モデル別セグメントの特性に合った製品戦略を策定するとともに、トラディショナル、クラウド一体となったハイブリッドクラウドの提案力を強化することで、更新需要を獲得していくことが必要である」と述べている。
今回の発表は、IDCが発行したレポート「国内SoR向けエンタープライズインフラ市場 ハイアベイラビリティインフラ予測、2018年~2022年」にその詳細が報告されている。なお、調査レポートは2017年第4四半期版の「IDC Quarterly Cloud IT Infrastructure Tracker」、2017年下半期版の「IDC Semiannual Server Tracker: Workloads」「国内サーバー市場 システムタイプ別予測、2018年~2022年(JPJ42923618、2018年5月発行)」および「国内エンタープライズストレージシステム市場 システムタイプ別予測、2018年~2022年(JPJ42923718、2018年6月発行)」に基づいている。
■アベイラビリティレベル(Availability Level)
・AL1(Availability Level 1、ノープロビジョン):ワークロードバランスや仮想化、またはクラスタリングなどの可用性向上に対する対応が施されていない(ノープロビジョン)エンタープライズインフラである。なお、製品出荷後、配備先にて、ユーザーがワークロードバランシングやクラスタリング対応ソフトを導入し、上位のアベイラビリティレベルに変更することは想定される。しかし、調査レポートは、あくまでも製品出荷時点をアベイラビリティレベルの判断ポイントとしているので、便宜上、これらのエンタープライズインフラも、AL1として分類している。
・AL2(Availability Level 2、ワークロードバランシング):ワークロードバランスや仮想化ソフトが搭載もしくはバンドルされたエンタープライズインフラである。システムの稼働状況に応じて、ワークロードが稼働しているシステムとは別の物理システムや仮想マシンとの負荷分散を行うワークロードバランシング機能を有する。なお、エンタープライズインフラが障害停止した際、自動的に他のシステムに処理を引き継ぐフェイルオーバー機能は有さない。
・AL3(Availability Level 3、クラスタリング):クラスタリングソフトウェアが搭載もしくはバンドルされたエンタープライズインフラである。クラスタリングは、複数のエンタープライズインフラを論理的にひとまとめにして動作させる仕組みである。あるエンタープライズインフラが障害停止した場合、他のエンタープライズインフラがその処理を自動的に引き継ぐフェイルオーバー機能を有する。
・AL4(Availability Level 4、フォールトトレラント):多重化されたハードウェア、ソフトウェアコンポーネントで構成され、障害によるトランザクション処理中断を回避する目的で設計されたエンタープライズインフラである。システム稼働率をファイブ・ナイン(99.999%)またはシックス・ナイン(99.9999%)を前提としている。また、フォールトトレラント関連のソフトウェアコンポーネントは、ベンダーの自社製品の使用を前提とし、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークの保守サービスの窓口は、シングルコンタクトポイントになっていることが前提である。