ガートナージャパン(以下、Gartner)は、「ガートナー ITインフラストラクチャ、オペレーション&クラウド戦略コンファレンス」のオープニング基調講演において、今後のインフラストラクチャの構築や運用には、ジェネレーティブAIやインフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリングの実践と人材の強化が重要であるとの見解を発表した。
同社バイスプレジデントアナリストの池田武史氏は次のように述べている。
「テクノロジの進化はとどまることはなく、加速しています。テクノロジが進化し、浸透していく中、ITリーダーやインフラストラクチャとオペレーション(I&O)のリーダーには、トレンドを理解し、操縦し、主導権を握り、目指すべき方角に進める舵取りの役割が求められています」
Gartnerでは、ジェネレーティブAIなどのテクノロジを活用してイノベーションを起こしていくイニシアティブを「ジェネレーティブ・トランスフォーメーション」と呼んでいる。具体的には、「継続的に起こる変化に対し、前向きに対応し続けること」「ビジネスやシステムのパフォーマンス、効率性、サービス品質などを常に改善していくこと」「新しいビジネス目標を達成するために、新しいテクノロジにチャレンジし、ビジネスのスピードに追従していくこと」を指しているという。
ITリーダーやI&Oリーダーは、今後のインフラストラクチャの構築や運用にジェネレーティブ・トランスフォーメーションのアプローチを取り入れることが求められるとのこと。ジェネレーティブ・トランスフォーメーションには押さえておくべき3つの要素が挙げられるとしている。
ジェネレーティブAI(生成AI)
ジェネレーティブAIは、人とマシンの新たな信頼関係を築く重要なテクノロジであり、ハイプ・サイクルでもピークに達している。GartnerがCIOを対象に実施した最新の調査では、回答者の80%が3年以内にジェネレーティブAIを全面的に導入しようと計画していることが明らかになっている。また、別の調査では、CEOの75%は、ChatGPTを試したことがあると回答しているという。
池田氏は次のように述べている。
「ジェネレーティブAIはテキストや音声や映像などを駆使して新たなコンテンツを生み出しますが、いくら文法的に正しくても、流暢な表現であっても、まだまだ完璧ではない点に留意する必要があります。また、日常的な改善から大胆な変革まで幅広く機能しますが、何のために導入するのか、その位置付け(『大志』)を明確にすることが重要です。その他、テクノロジを操る『スキル』の獲得を最重視すること、データを保護し、リスクを軽減するための『ガードレール』を設置すること、戦略的で実行可能な『計画』を立てて実行すること、の4つの取り組みが求められます」
インフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリング
I&Oリーダーは、テクノロジ進化のスピードが加速する状況において、インフラストラクチャの構築や運用を根本から見直し、省力化や自動化を前提としたプラットフォームへの移行を推進することが求められているという。
I&OチームとI&Oが提供しているインフラストラクチャの利用者の間には、I&Oチームの対応の迅速さや、提供しているインフラストラクチャ・プラットフォームが利用者のビジネス目標と整合性が取れていないなどのギャップがあり、それを埋める取り組みとして、プラットフォーム・エンジニアリングが注目されている。同社のプラットフォーム・エンジニアリングは、ソフトウェアのデリバリとライフサイクル管理を目的としたセルフサービス型の企業内開発者プラットフォームの構築と運用に関する取り組みであり、生産性とユーザーエクスペリエンスを最適化し、ビジネス価値の実現を加速させることを目的としている。
プラットフォーム・エンジニアリングの原理原則に挙げられる要素は、インフラストラクチャ・プラットフォームのデリバリの最適化においても適用可能。同社は、これをインフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリングと呼んでいる。先行する企業では、他部門の利用者に価値を提供するためにI&Oチームをインフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリングに変革しているという。
同社シニアディレクターアナリストのシドハース・シェティ(Siddharth Shetty)氏は次のように述べている。
「転換点にいる今、オペレーショナル・エクセレンス(卓越した業務運営能力)を提供するだけでは不十分です。I&Oリーダーは、対応の速度を上げて、ビジネス競争に打ち勝つためにイノベーションに資する必要なプロダクト機能を提供する必要があります」
2027年までに、自チームをインフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリングのデリバリ・モデルへ変革できないI&Oリーダーの70%は、レガシー・インフラストラクチャ・サービスのみを管理することになるとGartnerはみている。
インフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリングは、プロダクト・チームの生産性を高める、社内開発者の開発者エクスペリエンスを向上させる、プラットフォームの利用者の認知負荷を低減させるなどのメリットをもたらすとのこと。一方、I&Oチームには、作業とリソースにおける重複を削減する、俊敏性を向上させる、定着率の向上と人材を惹きつける、オペレーションを最適化するなどのメリットがあるという。
シェティ氏は次のように述べている。
「インフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリングはI&Oリーダーが目指すべき未来の姿です。それには、社内の利用者を顧客として彼らの成功に必要なものをプロダクトとして構築し、プラットフォーム・オーナーを任命して必要なリソースを配分し、I&Oチームに投資し、能力開発やスキル向上の支援をし、適用可能なところにジェネレーティブAIを活用することが求められます」
人材の強化
ジェネレーティブ・トランスフォーメーションには、新たな人間の能力も必要になるとのこと。それには、単にテクノロジの活用やスキルを向上させるだけでなく、これまでの制約から解き放たれた創造性を生み出す思考、つまりジェネレーティブ・マインドセットを持つ人材の強化が必要だとしている。
同社シニアプリンシパルアナリストのオータム・スタニシュ(Autumn Stanish)氏は次のように述べている。
「人材の強化に関しては3つのアプローチが考えられます。1つ目は特性を見極めて採用するアプローチです。一過性の資格や経験などに重きをおかず、仕事を通して生み出すであろう成果をベースに、能力や特性を見極めて採用します。2つ目は従業員の成長を促進するための機会を増やすこと、また、人材のキャリアそのものを支援するアプローチです。3つ目は心理的安全性を醸成すること、言い換えると失敗を恐れずに試行錯誤を奨励する組織文化を醸成するアプローチです」
同社の調査では、66%もの組織がIT部門における深刻なスキル・ギャップの解消に苦心していると回答。インフラストラクチャ・プラットフォーム・エンジニアリングやジェネレーティブAIなどの新しいプロセスやテクノロジの進化とともに、I&O担当者はこれまで以上に新たなスキルを獲得することが求められているという。
一方、別の調査では、心理的安全性の高い従業員は、新たに学んだスキルを仕事に応用する可能性が67%高く、心理的安全性が低い従業員は、新しいスキルに苦労していることを認める可能性が78%低いことが明らかになっている。
スタニシュ氏は次のように述べている。
「I&Oリーダーは、担当者が失敗をしても非難されることなく、新しい役割を探求できるような魅力的な組織文化を醸成することが重要です」
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