ガートナージャパン(以下、Gartner)は、2024年に企業や組織にとって重要なインパクトを持つ10の「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」を発表。11月13日、「Gartner IT Symposium/Xpo」において、同社バイス プレジデント アナリストの池田武史氏が解説した。
2024年の戦略的テクノロジのトップトレンドは、「投資の保護」「ビルダーの台頭」「価値のデリバー」の3つの包括的なテーマで捉えることができるという。「投資の保護」に含まれるトレンドは、ESGにも配慮した持続可能な未来を形作り、「ビルダーの台頭」に含まれるトレンドは、アプリケーションやサービスの開発および運用に関わる人が効率的で創造的な力を発揮できるような環境の構築を目指す。「価値のデリバー」に含まれるトレンドは、意思決定を行うため、あるいは新たなエクスペリエンスに移行するためのトレンドだとしている。
なお、ここで取り上げているトレンドやテクノロジは、取り上げる順番によって重要という意味ではない。また、それらは単独で存在せず、相互に依存し強化されるという。
AI TRiSM(AIの信頼性/リスク/セキュリティマネジメント)
AI TRiSMは、コンプライアンスを達成するためのテクノロジ。進化の著しいAIを浸透させ、多くの場面で採用していくためにも、このAI TRiSMの必要性が緊急かつ明白になっている。AI TRiSMのような「ガードレール」がなければ、AIモデルは急速に悪影響を及ぼし、制御不能に陥り、期待していた効果を得ることができなくなるとしている。
2026年までに、AIの信頼性/リスク/セキュリティマネジメントのコントロールを適用する企業は、誤った情報や不正な情報を最大80%排除し、意思決定の精度を高めるようになるとGartnerはみている。
CTEM(継続的な脅威エクスポージャ管理)
継続的な脅威エクスポージャ管理とは、企業のデジタルおよび物理資産のアクセシビリティ、脅威エクスポージャ、悪用可能性を継続的かつ一貫して評価できるようにするためのアプローチ。CTEMの評価と修復の範囲を、インフラストラクチャのコンポーネントではなく攻撃シナリオやビジネスプロジェクトに連携させることで、脆弱性だけでなく、パッチが適用できない脅威も明らかになるという。
2026年までに、継続的な脅威エクスポージャ管理プログラムに基づいてセキュリティ投資の優先順位を設定している組織は、セキュリティ侵害を3分の2減らせるようになるとみている。
持続可能なテクノロジ
持続可能なテクノロジは、長期的な生態系バランスや人権を支えるESGの成果を実現するデジタルソリューションのフレームワーク。AI、暗号通貨、IoT、クラウドコンピューティングといったテクノロジが利用されることで、関連するエネルギー消費や環境への影響についての懸念が高まっている。そのため、ITの利用を効率化し、循環的かつ持続可能にすることが重要だという。
2027年までに、CIOの25%は、持続可能なテクノロジの影響に連動する報酬を受け取るようになると同社はみている。
プラットフォーム・エンジニアリング
テクノロジが多様化、複雑化しライフサイクルも早くなっていく中で、開発者の負担は大きくなり、また、企業や組織にとっては十分な人材を確保すること自体が大きなチャレンジとなっている。プラットフォーム・エンジニアリングは、ソフトウェアのデリバリとライフサイクル管理を目的としたセルフサービス型の企業内開発者プラットフォームの構築と運用に関する取り組みだとしている。
各プラットフォームは、専任のプロダクトチームによって構築・維持されるレイヤであり、ツールやプロセスと連動することでサービスの提供を支えられるよう設計される。プラットフォーム・エンジニアリングの目標は、生産性とユーザーエクスペリエンスを最適化し、ビジネス価値の実現を加速させることだという。
AI拡張型開発
AI拡張型開発とは、ソフトウェアエンジニアによるアプリケーションの設計、コーディング、テストを支援するために、ジェネレーティブAIや機械学習などのAIテクノロジを利用する開発。AI支援型ソフトウェアエンジニアリングは、開発者の生産性を高め、ビジネス運営向けソフトウェアに対する需要の高まりに開発チームが対応できるよう支援するとしている。
このようにAIを組み込んだ開発ツールによって、ソフトウェアエンジニアはコーディングに要する時間を短縮し、ビジネスアプリケーションの設計や構成といった戦略的意義がより大きい活動に振り分ける時間を増やすことができるという。
インダストリ・クラウド・プラットフォーム
インダストリ・クラウド・プラットフォームは、企業が提供するプロダクト全体でSaaS/PaaS/IaaSの基盤サービスを組み合わせることによって、業界別の具体的な要件に対処。通常、同プラットフォームには、業界別のデータファブリック、ビジネスケイパビリティパッケージのライブラリ、コンポジションツール、その他のプラットフォームのイノベーションが含まれる。業界固有のカスタマイズ機能を提供するクラウドの提案であり、各組織のニーズに合わせてカスタマイズできるとしている。
2027年までに、企業の70%以上は、ビジネスイニシアティブを加速させるためにインダストリ・クラウド・プラットフォームを使用するようになるとのこと。これは2023年の15%未満からの増加になるという。
インテリジェント・アプリケーション
インテリジェンス、すなわち適切かつ自律的に応答するための学習で得られた適応力を持つアプリケーション。多くのユースケースで、作業の拡張や自動化を向上させるために活用できるという。アプリケーションの基礎的なケイパビリティとなるインテリジェンスは、機械学習、ベクトルストア、コネクテッドデータなど、AIベースの多様なサービスで構成。ユーザーに対して動的に適応するエクスペリエンスを提供するとしている。
2026年までに、ISVの80%以上が、エンタープライズアプリケーションにジェネレーティブAI機能を組み込むことになり、2023年の1%未満から増加すると同社ではみている。
ジェネレーティブAIの民主化
大規模な事前学習型モデル、クラウドコンピューティング、オープンソースを統合させることによって、ジェネレーティブAIの民主化が進みつつあり、世界中の従業員がこうしたモデルにアクセスできるようになっているとのこと。2026年までに、80%以上の企業は、ジェネレーティブAIのAPIとモデルを使用し、本番環境でジェネレーティブAI対応のアプリケーションを展開するようになるという。
ジェネレーティブAI対応アプリケーションは、ビジネスユーザーによる社内外の膨大な情報源へのアクセスと利用を技術的に可能にする。つまり、ジェネレーティブAIの導入が急速に進むことで、企業内の知識とスキルが大きく民主化されるとのこと。大規模な言語モデルを活用することで、豊富なセマンティクス(データの持つ意味)の理解に基づく会話形式で、従業員と知識を結び付けることができる。このトレンドが進行するとジェネレーティブAIの倫理面への配慮も重要なテーマになっていくとしている。
拡張コネクテッド・ワークフォース
従業員から得られる価値を最適化するための戦略で、人材活用の加速と規模の拡大が必要とされている状況がこのトレンドをけん引している。インテリジェントアプリケーションとワークフォースアナリティクスを使用して、従業員のエクスペリエンス、ウェルビーイング、自己の能力開発をサポートするための日常的なコンテキストとガイダンスを提供。同時に、主要なステークホルダーにとってのビジネス成果やプラスの影響を高めるという。
同社は、2027年末までに、CIOの25%は、拡張コネクテッド・ワークフォースのイニシアティブを利用して、重要な職務のコンピテンシ獲得に要する時間を50%短縮するとみている。
マシン・カスタマー
マシン・カスタマー(顧客ボットとも呼ばれる)とは、支払いと引き換えにモノやサービスを自律的に交渉・購入できる人間以外の経済主体。2028年までに、顧客として行動する可能性のあるコネクテッドプロダクトが150億個存在するようになり、数年間で数十億個増加すると予想されるという。
この成長トレンドは、2030年までに数兆ドル規模の収益の源泉となり、最終的にはデジタルコマースの到来以上に重要な影響をもたらすものになるとのこと。こうしたアルゴリズムやデバイスを促進する機会、あるいは新たな顧客ボットを生み出す機会を含めて、戦略的に検討する必要があるとしている。
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