3月18日、NVIDIAの年次カンファレンス「GTC 2025」がサンノゼで開催され、ジェンスン・フアンCEOが基調講演で、「Blackwell」後の次世代チップ「Vera Rubin」、AIファクトリー向けOS「Dynamo」、人型ロボット基盤「Groot N1」を発表した。また、同社の開発ロードマップも明らかとなった。

冒頭、フアン氏は1月のCESで示した「ジェネレイティブAI」「エージェントAI」から「フィジカルAI」(物理世界で動作するAI)への移行を改めて強調。このビジョンを実現するためのAIプラットフォーム「NVIDIA Cosmos」は物理的なAIのデジタルツイン(仮想モデル)を構築・訓練するための基盤として機能する。これによりロボットや自動運転車の学習を加速し、触覚や3D空間認識をシミュレーションで強化されるという。講演ではCosmosを使ったデモが披露され、物理法則に基づくリアルタイムシミュレーションが示された。
これらの高度な推論能力の実現には従来の予想を遥かに上回る計算能力が必要となる。フアン氏によれば、エージェントAIと推論能力には「昨年の予想よりも100倍以上の計算能力」が必要なのだ。

その背景には、AIが推論を行う際に生成するトークン(単語や文字の断片)の量の大幅な増加がある。また、より複雑なモデルを高速に動作させるための演算能力も急務となっている。この需要増加を示す例として、主要クラウドサービスプロバイダー(CSP)向けのHopperチップの出荷量の急増が挙げられる。
GMとの共同開発、次世代GPUのロードマップ

続いてフアン氏は、ゼネラル・モーターズ(GM)との新たなパートナーシップを発表。両社はNVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティング技術を活用し、GMの工場最適化向けカスタムAIシステムを開発する。NVIDIA OmniverseとCosmosによる工場デジタルツインの構築で、仮想テストと生産シミュレーションが可能になり、ダウンタイム削減と生産性向上を実現する。また、NVIDIA Drive AGXとBlackwellアーキテクチャを基盤とした次世代車両の安全システム開発や、AI強化による産業用ロボットの効率化も進められている。
また今後のロードマップとして、現行のBlackwellに続く、Blackwell Ultra(2025年後半)、Vera Rubin(2026年後半)、Vera Rubin Ultra(2027年後半)、Feynman(2028年予定)。「Blackwellがようやく量産体制に入ったばかりですが、私たちはAIインフラストラクチャの未来を計画する必要があります。これは数年先を見据えた計画が必要なのです」とフアン氏は将来展望を語った。

AIファクトリーOS「Dynamo」

新たなAIワークロードを最適化するため、NVIDIAは「Dynamo」と呼ばれるAIファクトリー向けオペレーティングシステムを発表した。Dynamoは単なるOSではなく、大規模なAIモデルの推論処理とその結果生成(デコード)フェーズを効率的に管理するための専用プラットフォームである。
特に注目すべきは、Dynamoが持つスケジューリング機能だ。複数のAIモデルを同時に効率よく動作させるために、リソース割り当てを最適化し、GPU使用率を高めることができる。これにより、AIファクトリーのスループットが劇的に向上するとされている。
さらにDynamoは、学習時と推論時のモデル最適化機能も備えている。これにより、モデルのトークン生成速度が向上し、より複雑な推論タスクを高速に実行できるようになる。フアン氏によれば、BlackwellとDynamoの組み合わせにより、AIファクトリーのパフォーマンスが最大40倍向上するとのことだ。
「DGX Station」と「R1」オープンソースモデル
後半では、エンタープライズ向けAIコンピューティングの製品ラインが紹介された。フアン氏は「世界には10億人のナレッジワーカーがいるが、将来的には100億のデジタルワーカーが私たちと並んで働くことになる」と述べ、2025年末までにNVIDIAのすべてのソフトウェアエンジニアがAIアシスタントを活用するようになると予測した。
さらに、注目を集めたのが、初のAI向け個人用コンピュータ「DGX Station」である。20ペタフロップスの演算性能、72CPUコア、HBOメモリ、GeForce GPUを追加搭載可能なPCIeスロット液冷式の仕様を持つ「個人向けAIワークステーション」について、フアン氏は「これこそPCがあるべき姿だ」と強調した。

コンピューティングの三本柱である「コンピューティング」「ネットワーキング」「ストレージ」のすべてがAIによって革新されるとの展望も示された。特にストレージについては「検索ベースから意味ベースのシステムへと完全に作り直される必要がある」と主張。このビジョンを実現するため、DDN、Dell、HPE、日立、IBM、NetApp、Nutanix、Pure Storage、VAST、Wekaなど、主要ストレージベンダーとの協業を進めているという。
さらに、推論能力を備えたオープンソースモデル「R1」も発表された。R1は非推論モデルのLlama 3と比較してより高度な問題解決能力を持ち、企業利用に最適化されているとのことだ。
人型ロボット基盤「Groot N1」と「Newton」エンジン
さらにフアン氏は「Isaac GROOT N1」を披露した。これはヒューマノイドロボット向けの「世界初のオープンな基礎モデル」と位置付けられている。GROOT(Generalist Robot 00 Technology)は、2024年のGTCで初公開されたProject GR00Tの進化版で、ロボットが物理的な環境で動作するための汎用AIモデルです。
フアン氏は「ロボットの時代が到来した」と宣言し、世界が2030年までに少なくとも5000万人の労働力不足に直面するとの予測を示し「私たちはロボットにも人間と同等の対価を支払うことになる」と述べた。NVIDIAはロボット開発のための三つの主要コンピューティングプラットフォームを提供する:
- トレーニング:大量のデータによるロボット学習
- シミュレーション:Omniverse上での動作検証
- 実世界経験:実環境でのデータフィードバック
ロボットの環境認識と操作能力を向上させるため、「Isaac Perceptor」ソフトウェア開発キット(SDK)も発表された。これはマルチカメラによる視覚的オドメトリ、3D再構築、占有マップ、深度知覚を強化するもので、ロボットが周囲環境をより正確に把握し動作できるようになる。さらに「Isaac Manipulator」も紹介され、ロボットアームの知覚、経路計画、運動制御を高度化。これにより、工場や医療現場での柔軟な操作が実現可能になるという。
「Groot N1」は「速く考える」(Fast)システムと「ゆっくり考える」(Slow)システムを組み合わせた二重アーキテクチャを採用している。ゆっくり考えるシステムが環境と指示を認識・推論し適切なアクションを計画する一方、速く考えるシステムはその計画を精密で連続的なロボット動作に変換するという仕組みだ。

もう一つの重要発表が、Disney ResearchとDigiProとの共同開発による物理シミュレーションエンジン「Newton」である。このエンジンは微細な柔軟物体のシミュレーションや触覚フィードバック、精密なモーターコントロールに最適化されている。ステージ上には実際に「Blue」と呼ばれる人型ロボットが登場し、リアルタイムシミュレーションのデモが行われた。
注目すべきは、Groot N1がオープンソースとして提供されることが発表され、会場から大きな拍手が沸き起こったことだろう。このオープンソース化は、NVIDIAが技術の独占ではなくエコシステム拡大を狙っていることを示しており、特に中小企業や研究者に大きな機会を提供する。フアン氏は「ロボティクスの民主化」という言葉を用い、革新のスピードを加速させる意図を明らかにした。
2時間半を超える熱弁を締めくくりに、フアン氏は以下のポイントを再確認した。Blackwellが本格生産に入り顧客需要は急増していること、Blackwell NVLink 72とDynamoの組み合わせにより、AIファクトリーのパフォーマンスが40倍向上すること、そして毎年のロードマップ更新によりAIインフラの計画が容易になることだ。
特に強調されたのは、フィジカルAIが単なる理論から実用段階に移行しつつある点である。CosmosやIsaac関連のツールは、ロボットが現実世界で自律的に動作するための基盤を強化し、産業(製造、物流、医療)から日常生活まで変革する可能性を秘めている。
フアン氏は「すべてがロボットになる」という野心的な展望を示し、自動車や配送ボットに加え、家庭用ロボットまで視野に入れた将来像を描いた。「我々は、ロボットが人間と協働する世界に向かっている。それはAIによって制御され、人間の能力を拡張するものだ」と述べた。
GTC 2025では、これらの発表に関連する詳細なセッションが今後数日間にわたって行われる予定である。
