2026年10月1日、改正労働施策総合推進法の施行により、すべての事業主に対してカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)から従業員を守る体制整備が義務付けられた。これを受けてリンクとブライシスが運営するBIZTELは同日、カスハラの実態や法改正のポイント、現場での具体的な取り組みなどを紹介するラウンドテーブルを開催。東洋大学 社会学部 社会心理学科 桐生正幸教授のほか、ブライシス shouin事業部 佐藤綾氏、リンク 取締役 BIZTEL事業部長 坂元剛氏、「カスタマーハラスメント対策宣言」を公表した「MUHI」ブランドを展開する池田模範堂から高橋亜貴子氏と小幡珠紀氏が登壇し、議論が展開された。
株式会社リンク 取締役 BIZTEL事業部長 坂元剛氏
東洋大学 社会学部 社会心理学科 教授 桐生正幸氏
株式会社池田模範堂 高橋亜貴子氏、同 小幡珠紀氏
冒頭、佐藤氏は法改正におけるカスハラの定義として「顧客からの言動であること」「社会通念上許容される範囲を超えていること」「従業員の就業環境が害されること」の3点を挙げた。これらを満たす事案に対し、企業には方針の事前策定や相談体制の整備、発生時の事実確認や再発防止策が義務付けられ、怠った場合は行政指導や社名公表のリスクが生じる。桐生教授は、今回の法律は加害者を罰するものではなく従業員を守るための規定であり、線引きの基準があいまいだからこそ企業側の知恵と体制整備が不可欠になると指摘した。
リンクの坂元氏からは、問い合わせ窓口業務に従事する560名を対象に実施された実態調査の結果が発表された。調査によると、過去1年間でカスハラを受けた経験がある割合は47.0%に上り、接点としては電話対応が61.5%と最多を占める。また、カスハラを受けた従業員の55.6%が仕事に対する意欲低下を訴えており、放置すれば貴重な人材の離職や採用難といった経営リスクへ直結することを示した。
また、調査結果からカスハラの発生要因として顧客側の特権意識(36.2%)以上に「企業のたらい回し・過度な待機時間(47.1%)」が最多であった点が提示された。現場を悩ませる正当なクレームとカスハラとの「グレーゾーン」について桐生教授は、顧客が商品やサービスに抱いた不満足に対し、顧客の自尊感情や攻撃性といった個人的特質と、企業のぞんざいな対応や不備が相互作用を起こすことでカスハラへと深刻化すると指摘する。「誠意を見せろ」という不当な要求に従うのではなく、なぜその要求が出されるのかを疑うなど、従来の常識にとらわれない明確なガイドラインを企業全体で構築する必要性を強調した。
具体的な課題解決の事例として、池田模範堂の高橋亜貴子氏が取り組みを紹介した。同社は一部の暴言対応による現場の疲弊をきっかけに、2025年11月に「カスタマーハラスメント対策宣言」を公表し、2026年8月には全社用マニュアルを作成したプロセスを設定。1回の対応でカスハラ認定はせず、同一内容の10分以上の重複が3回続くなど計30分を目安として、切電できる基準を設定している。
現場での運用成果について、同社 小幡珠紀氏は、通話前に録音していることを伝えるガイダンスの導入により、セクシャルハラスメント目的の電話が大幅に減少したと述べる。また、組織がバックアップしてくれるという実感と、負の感情を従業員1人に抱え込ませない環境づくりが現場の大きな安心感につながっているとした。
こうした取り組みを支える社内教育について佐藤氏は、ルールやマニュアルを策定するだけでなく、現場のオペレーターやスーパーバイザーが直面した際に迷わず動ける研修の重要性を訴えた。ITシステムの観点からは、坂元氏が通話録音やAIを活用したカスハラ自動判定、CRM連携などのソリューションなどを紹介。客観的なAIによる判定を取り入れることで、個人差が出やすい判定基準を統一し、組織的な統制を可能にするとした。
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