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国内InsurTech市場は2020年度には1,100億円規模に達する――矢野経済研究所が調査と予測

  2017/05/29 16:30

 矢野経済研究所では、3月から5月にかけて、国内のInsurTech(インシュアテック)市場の調査を実施し、このほどその結果の概要を発表した。

 矢野経済研究所では、InsurTech(インシュアテック)とは、保険(Insurance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語であり、従来の生命保険会社では提供できなかった新たな保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化などにおいてIT技術を活用して提供する生命保険関連サービスを意味するとしている。

 この調査におけるInsurTechは、次のように8つに分類した領域を対象としている。

  • 個人ごとの(健康増進型)保険商品の開発
  • 疾病管理プログラム
  • AIやチャットボットなどを活用した保険見直しコンサルティングや保険相談サービス
  • AIを活用したアン ダーライティング(引受)の自動化
  • 受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング
  • アプリなどによる契約者および契約者の家族向けアフターサービス
  • AIやBRMS(ビジネスルール管理システム)などを活用した支払査定の自動化
  • インフラとしてのブロックチェーンの活用

 国内InsurTech市場規模は、従来の生命保険会社が提供していなかった新しい保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化をサポートするベンダーやベンチャー企業に焦点を当て、当該参入事業者の売上高ベースで算出している。

市場概況――2016年度の国内市場規模は460億円の見込み

 2016年度の国内InsurTech市場規模(参入事業者売上高ベース)は、460億円の見込みで、特にAIなどを活用した業務の効率化・高度化ソリューションが市場をけん引した。生命保険会社の業務プロセスのうち、引受査定や保険金・給付金の支払いなど、一部の領域においてAIなどの導入が進んでおり、業務プロセス改革も併せて取組むことによる成功事例も生まれている。

 また、生命保険会社を中心に健康増進型保険(健康状態や健康増進に向けた取組み度合いに応じて保険料が変動する保険商品)や疾病管理プログラムなど、従来にはない新しい保険商品・ サービスに向けたデータ収集などを進めており、徐々に盛り上がりを見せ始めている。

 一方、法改正のほか、金融機関やSIerを中心とした、ベンチャー企業の支援環境整備が進む FinTech(フィンテック)と異なり、InsurTechにおけるベンチャー企業の支援環境はまだ僅かに留まる。

注目すべき動向――AI活用や法整備、技術環境など

 ■AI活用など業務の効率化・高度化ソリューションが市場の牽引役

 2016年度は、特にAI(人工知能)などを活用した業務の効率化・高度化ソリューションが市場を牽引した。現在、引受査定や保険金・給付金の支払などの領域に限定してAIなどの導入が進んでおり、2017年度以降も引き続き、AIなどを活用した業務効率化・高度化の範囲が広がっていくとみる。

 2017年度以降に市場を牽引する領域としては、上記の市場に加えて健康増進型保険や疾病管理プログラムが期待される。まず国内の大手生命保険会社を中心に、健康診断データやライフログデータの収集を通じて、健康増進型保険の開発を進めているほか、外資系の生命保険会社を中心に進む、疾病管理プログラムの充実に向けて、スマートフォンアプリを含めたサービス開発を今後、さらに加速させていくとみる。特にデータ収集にあたっては中央省庁や地方自治体の保有する公共データのオープン化 (オープンデータ)なども進むことが期待される。

 ■ベンチャー企業支援を中心に法整備や技術――市場の拡大には課題も

 まず法律的環境の整備について、FinTechは後押しする法律が相次いで成立する一方、保険業界は、保険業法等の改正の動きはなく、FinTechと比較して事業環境がまだ未整備である。ただし、2016年12月に成立した、官民データ活用推進基本法によって、中央省庁や地方自治体によるデータの公開を通じて、医療系データの取込みが進むことが期待される。

 次にベンチャー企業の支援環境の整備について、FinTechはメガバンクや地方銀行、SIerによる積極的なベンチャー企業育成イベントが積極的に行われている。一方、InsurTechにおける同様のイベント は限定的である。法規制などの障壁は大きな影響を与えるものの、そうした規制を回避する上では、生命保険会社やSIerなどによるベンチャー企業に対する支援・育成が不可欠であるため、今後のこうした 活動を期待する。

 さらに、技術的な環境整備として、特に期待されるのはAPIの公開である。APIを構築することで新たな保険商品やサービスが創出される可能性も出てくることが期待される。費用対効果を鑑みつつ、早急に検討を開始すべきと考える。

将来予測――API公開を含めベンチャー支援体制の整備などが進む

 今後は官民データ活用推進基本法によって、中央省庁や地方自治体によるデータの公開を通じて、健康増進型保険や疾病管理プログラムの開発が進むことが期待される。技術面では現在、活発化する銀行APIの公開に続く、保険領域におけるAPIの公開に向けた議論が今後、進むとみる。さらに大手生命保険会社を中心に、InsurTechベンチャー企業向けイベントの開催や法的支援をはじめ、ベンチャー企業の育成・支援に向けた環境が徐々に整っていくと考える。

 こうしたことを背景に国内InsurTech市場規模(参入事業者売上高ベース)は2018年度に565億円、2020年度には1,100億円に達すると予測する。なお、本調査では8領域に分類したが、今後、領域自体も、主たる事業者も変化していくことが予想される。

 また現在、健康増進型保険の開発を軸に進めているものの、将来的には同保険を軸としたエコシステム(生態系)の構築競争が加速していく可能性もあるものとみる。もしくは、先制医療(発症前に予測・ 診断し治療介入すべく研究が進む医療分野)を含め医療技術の発展や、ユーザー(一般生活者)の健康に対する意識の変化などを背景に、予防や予後まで含めた疾病管理プログラム間での競争に移行していくとみる。

 いずれにしてもInsurTechによって、生命保険会社は従来の支払事由が発生した際に保険金を支払う位置づけから、支払事由を回避する上で、加入者に寄り添い支援していくパートナーとしての位置づけに変わっていくことが期待される。

国内InsurTech(インシュアテック)市場規模推移予測  

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著者プロフィール

  • EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)

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