
前回(第1回)ではRPA(Robotic Process Automation)が本格的な導入期に入ったことを述べ、この技術がもたらすメリットを説明しました。しかし、どんな技術にも一長一短があります。第2回は、RPAの負の側面にも焦点を当てながら、ITILを活用した品質管理やRPA適用範囲に応じた管理体制など失敗しないためのシステム運用の解説を交え、きれいごとでは済まないRPA導入の難所に触れていきます。
ほんの少しの変更がRPAを止めてしまう?
RPAに対しては「まだまだ話題先行の段階で、企業が抱える実業務への導入には課題も多い」と考える人もいます。たとえば、RPAツールを使ってウェブサイトへ自動ログインする処理があったとしましょう。メールとパスワードのフォーム2か所に既定の文字列を入力して送信するシンプルなプロセスです。もちろんRPAを活用して実装するのは難しくありません。ただ、その後にログイン画面にちょっとした変更が加わったとします。以下のようにメールのフォームタグ内でIDを「email」から「mailaddress」へ変更しました。その結果、どうなるでしょうか。

なんとRPAツールは異常終了して停止してしまいました。たった1カ所の文字列を変更しただけで動かなくなってしまったのです。なぜ、たったこれだけの変更がプロセスの異常終了をもたらしたのか――、その答えを知るにはRPAツールの仕組みを知る必要があります。 RPAツールは、マウスやキーボード操作を行う対象をテキスト情報、またはイメージ情報から判断します。前述のログイン処理では、RPAツールは次のロジックでログイン処理を行っていました。
これらの処理のうち、2番目に行われるidのテキストフォームを特定するところで、「email」という値を見つけることができず、異常終了したというのが原因です。人間の運用作業者であれば、Eメールを入力するテキストフォームのIDが変更されたとしても、まったく問題なくログインすることが可能ですが、RPAではそうとは限りません。
RPAツールは人の目には表れないソースデータを読み込んでいるため、もしソースデータに変更を加えるのであれば、たとえ人の目に映る部分に変化がなくても、開発者はRPAツール管理者に情報を連携しておく必要があります。ただ、多くの組織では、RPAツールの管理者と、同ツールの処理対象になっているシステムの管理者との間で変更情報がスムーズに共有できていません。このことが、RPAの保守運用工数を増大させています。RPAで業務自動化を実現できたらコストも減るはずだったのに、かえって今までよりも多くの保守運用工数が発生し、むしろコストが増えてしまったというケースもあります。
ITILに基づきRPAの品質管理を行う
RPAをエンタープライズレベルで導入することはまだ新しい取り組みと言えます。確実に品質を保証する術は現段階で確立されていません。トラディショナルなITサービスマネジメントのコンサルティングを長年行ってきた経験と、RPAプロセスの導入で試行錯誤した経験から、RPAを導入する際には、品質管理として以下の3つのポイントに着目したテストの実施を強く推奨します。

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中 寛之(ナカ ヒロユキ)
アクセンチュア株式会社 オペレーションズ本部 シニア・マネージャー。業界を限定せず、先進的システム導入やグローバル展開プロジェクトなどの基盤運用設計領域をリードすることが多く、ITIL上位資格者(ITIL Manager)として、運用改善プロジェクトリードも多数務める。マルチベンダー管理を含む、運用...
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