AIが出した答えを、投資家に説明できますか? SAS中村氏が語るAI時代の意志決定リテラシー
AI時代のデータの世界観 #02 対談:SAS Institute Japan 中村洋介氏 × Quollio Technologies 松元亮太氏
データは増え続け、コストも膨らむ一方で、企業の収益性向上は追いついていない。統計分析システムの老舗SAS Institute Japanのコンサルティング事業本部長・中村洋介氏が、「データ横丁」の対談企画で明かしたのは、データ活用の本質を見失いがちな企業の現実だった。意思決定に必要なデータとは何か。データサイエンティストは今後どう変わるべきか。AI時代に問われる「判断の説明責任」について、率直に語り合った。
- 【AI時代のデータ世界観チャネル】 #3 SAS Institute x Quollio
- 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=H53kUsRB4j0&t=667s
- 配信元:データ横丁/協力:SAS Institute Japan株式会社
データは増えても、経済は追いついていない
松元:まず中村さんのご経歴から伺えますか。
中村:SAS Institute Japanでコンサルティングサービス事業部の責任者をしています。20数年の社会人人生のうち、約半分はAccentureやKPMG、Gartner等のコンサルティングファーム、残り半分が事業会社に所属していました。5年ほど自分で創業した会社を経営したり、一部上場企業の執行役員を務めたこともありますが、一貫して、ITをビジネスにどう活用するか、をキャリアの軸に置いてきました。
実はSASにJoinしたのは今年の1月なので、まだ1年も経っていません。今日視聴されているSASユーザーの皆さんの方が、SASのテクノロジーには詳しいかもしれませんね(笑)。
松元:私も学生時代にSASを使っていたので、懐かしいです。まず、SASがどういう世界観でプロダクトを作っているか教えてください。
中村:SASは1976年創業で、私より年上なんです(笑)。Statistical Analysis System(統計分析システム)の頭文字で、日本には1985年に上陸し、今年10月3日で日本法人設立40周年を迎えました。
創業から一貫して統計分析ソフトを作ってきたのが特徴です。いわゆるBIがシステム内のデータを可視化して「何が起きているか」をわかりやすくするものだとすれば、SASはそこから一歩進んで、データからその事象が「何故起きたか」を統計的に分析し、その要因を特定するところまで踏み込んでいる..それが創業から変わらない特徴です。
私たちが考えているのは、データをどれだけ扱えるようにするか、ではなく、データをどう活用して意志決定に繋げ、ビジネスバリューを生めるようにするか、です。真ん中に「意志決定(データパイプライン)」と書いていますが、この「いし」の字は「思」うではなく「志」なんですね。お客様が志を持ってきちんと決めていただくために必要な材料をお渡しする──それが私たちのツールの存在意義です。
松元:「志」の意志決定ですか。いいですね。金融の収益管理やリスク分析だけでなく、製造業の材料学、創薬の臨床試験レポートなど、幅広い領域で使われているんですよね。
中村:はい。特に創薬の分野では、FDA規制に準拠したレポート作成業務用ソリューションはデファクトスタンダードになっています。業界やユースケースによって強みの濃淡はありますが、一貫して意志決定を支えるツールとしてお使いいただいています。
データは多ければいい、という幻想
松元:今日は中村さんから事前にいただいたテーマで話を進めましょう。まず「データはどこまで必要か」について。
中村: これ、今朝GrokとGeminiに「投資ファンドでIT業界担当のシニアアナリスト」という設定で作らせたデータです。正確性には留保が必要ですが、傾向は見えます。
2015年、世界のデータ量は9.7ゼタバイトでした。それが2025年には181ゼタバイトと、約20倍に増えています。CAGR(年平均成長率)は34%です。一方で世界のGDPは、2015年の140兆ドルから2025年の185兆ドルと、確かに増えてはいますが、CAGRはわずか1.7%。データ量は爆発的に増えているのに、経済はそこまで成長していないんです。
企業の収益性向上率の観点で見ても、CAGRは6.7%程度。データ量の増加に対して生産性や収益性の伸びもずっと低い。データを持てば持つほどコストがかかるのに、成長が伴っていない。ゴールドラッシュで一番儲かったのは、金を掘る人ではなく道具を売る人だった──それと同じ構造が今、起きています。
松元:つまりデータプラットフォームのベンダーが儲かっていると(笑)。
中村:証券アナリストになったGrokくんの見解です(笑)。ただ実際、我々の顧客の経営層と話していても、皆さん同じことを仰います。「データ分析基盤を用意した。データとその器は数も量もどんどん増え、コストも増えている。でも、これで何が変わったのか?」と。
別のお客様には「データ1ビットあたりのTCO(Total Cost of Ownership/Operation)をどう評価すべきか」と相談されたとき、私は「(それを考えるならデータは)持たない方がいいですよね」とお伝えしました。TCOをどう計算するかより、必要なデータだけを持つにはどうしたらいいか──そちらの議論の方が重要じゃないですか、と。我々は、データは意志決定をするためのもの、と捉えています。もちろんそのために大量のデータが必要な場合はもちろんありますが、あくまでそれは正しい意志決定をするため。そのことを認識して保有するデータ量を増やしているか、が大事だと考えています。それを認識せず、まず今社内にあるデータをかき集めてみて、それを分析するところから始める……果たしてそれだけがデータ活用のアプローチなのか、ということを常々お伝えしています。
松元:最近は需要ベースでデータを整備する考え方が大事になってきていますね。
中村:元々大事だったんです。でも、事業部とIT部門の間には長年ギャップがありました。事業部は「こういうことがやりたい」という要求を持っているけれど、テクニカルに表現するのが得意でない。IT部門はITの専門家だけれど、業務や事業の専門家ではなく、事業部の要求をITの要件として解釈するのが得意でない……このギャップを埋めるために、コンサルティング会社や私たちのようなITベンダーが間に入ってきたわけですが、それでも断絶は残っています。結果として、事業部は自分達でシャドーITを組成し、IT部門はガバナンスが効かないと悩む。データが散乱する原因は、まさにそこにあります。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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