AIが出した答えを、投資家に説明できますか? SAS中村氏が語るAI時代の意志決定リテラシー
AI時代のデータの世界観 #02 対談:SAS Institute Japan 中村洋介氏 × Quollio Technologies 松元亮太氏
説明できないAIの答えを、投資家に出せますか?
松元:判断のガバナンスも重要になってきますね。
中村:まさに。今日、私もGrokとGeminiを使ってデータを作りましたが、「どうやって分析したの?」と聞かれると、ダウト(疑問)があるわけです。普段お客様の前に出すときは、とても出せない。
人間が作っている世界は、非常に高度にできています。機械が進化したからといって、何でもかんでも自動化できるほど単純じゃない。それは、人間一人ひとりが意志を持って生きている中で作り上げてきたものだからです。
説明責任を果たせるかどうか──これが鍵です。「なぜこういう分析をしたのか」「なぜこうなるのか」を説明できないこともあります。思いついたアイデアを後付けで説明しようとしても、難しい場合がある。
説明責任の要件は、相手や状況によって全然変わります。「あのデータでいいよ」という相手もいれば、「あれじゃダメだ」という相手もいる。それに一つひとつ向き合うのは、また別のレベルの仕事です。
私たちには「インテリジェントディシジョニング」というソリューションがあります。人間の意志決定をプロセスにして、プログラムを書いたり、テンプレートを使ったりして、ディシジョンチェーンを統合的に作れるものです。「ここでこういう判断をしているからこうなっている」と見えるから、安心して使える。
見えないものを安心して使える──そこまで人間の成熟度が上がるのか、AIに対する信頼を持てるようになるのか。少なくとも企業経営に関しては、まだ難しいと思います。
松元:説明できないものを投資家に持っていけるかという話ですね。
中村:経営者の方々はまず無理でしょう。「AIがこう言っているから投資します」とはならないと思います。なっていたら面白いな、と思いますが(笑)。
「問い」が価値を生む
松元:最後に、データ活用のエッセンスをまとめていただけますか。
中村:3つあります。
まず、「問い」が価値を生むということ。データがあるからどうこうではなく、まず「何をしたいのか」「どうすれば事業価値を高められるのか」という観点が大切です。
次に、データリテラシー。たとえばデータ項目とは何か、メタデータとは何か、といった用語の理解。また、“Data is Oil”と言われる時代に「データはデータじゃん」と思っている人はまだ多いですが、データの定義によって軽油と重油ぐらい違います(笑)。データが技術的にどう繋がって、何に使われているのか、接続性を踏まえて構想できるリテラシーが必要です。
最後に、意志決定のリネージ(系譜)。バックワード(過去成功した意志決定のプロセス)も含めて、意志決定のパイプラインを作っていく。成功企業を見ていると、こうしたエッセンスがきちんと押さえられています。
松元:今後、AIエージェントなどの新技術とも共存していく?
中村:もちろんです。私たちもAgentic AIやDigital Twin、量子AIといった分野で発表を続けています。ただ、量子コンピューターそのものを開発するのではなく、そこで扱われるデータをどう意志決定に繋げるかを重視しています。
私たちの価値は、データベースベンダーとは異なります。むしろ補完関係にあります。意志決定のために必要な最小限のデータを、きちんと意志決定のために扱えるようにする──それが私たちの役割です。
松元:今日は貴重なお話をありがとうございました。
中村:こちらこそ、ありがとうございました。データガバナンス、AIガバナンス、そして今回のデータ活用──この3回がセットになって、だんご三兄弟のように揃いましたね(笑)。
世の中にツールはどんどん増えていきます。だからこそ、自分たちが本当に何が必要なのかを言語化し、それを軸にベンダーと議論していく。それが日本のデジタル成熟度を上げる道だと思います。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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