
企業のデータ活用現場で日々生じる、「意味のズレ」がDXの隠れたボトルネックとなっている。特に生成AIが企業の競争力を左右する時代において、その基盤となるデータの「質」と「文脈」の管理は喫緊の課題だ。日本には専門企業が少なかった「メタデータマネジメント」という新たな領域で先駆的な取り組みを行うQuollio TechnologiesD 代表取締役社長 CEOの松元亮太氏に、データマネジメントの現状と未来、そして日本企業が世界で「企業価値を高める」ための方策を聞いた。
データへの疑問が起業の原動力
──大企業でのDX経験から、なぜメタデータに注目し、Quollioを創業するに至ったのでしょうか?
松元:当社は2021年、コロナが収束し始めた頃に創業しました。私は元々、KPMGグループの監査法人でDXを担当していました。具体的には、データマネジメントやデータサイエンス、AI、機械学習などを扱う部門にいたんです。
当時、データ統合やデータ整備は進んでいたものの、大きな課題がありました。データ活用への期待と、実際の成果との間に大きなギャップがあったのです。データは使われているのに、その「供給速度が遅い」「品質が良くない」というボトルネックに直面しました。
この課題を解決する鍵こそが「メタデータ」だと確信し、メタデータ管理に特化した会社を立ち上げる決意をしました。当時、日本にはこの領域の専門企業がありませんでした。DXを推進するには外部パートナーやベンダー製品が不可欠です。だからこそ、「日本でもスタートアップがこの領域に取り組むべきだ」という強い使命感がありました。
特に我々は「データカタログ」という領域に特化しています。ビッグデータ分析から機械学習、そして現在の生成AIへと、データ活用の形が変わる中で、データカタログに求められる役割も進化しています。我々はその最新のモデルを提供するベンダーとして事業を展開しています。
ビジネスメタデータが暗黙知を形式知化する
──企業のデータ活用において、なぜメタデータが重要なのでしょうか?多くの企業が直面している「見えざる壁」とは何でしょうか?
松元:多くの企業が直面しているのは、データが様々なシステムに分散して存在していることです。基幹システムやCRMなど、企業内の多様なシステムにデータが点在し、特に大企業では事業部ごとにシステムが構築されているため、データモデルも分散しています。
これをデータサイエンスやAIで活用しようとすると、例えば事業部をまたいだ分析や、カスタマージャーニー全体を分析するといったケースが出てきます。この時、元々のデータが作られた意図とは異なる使い方をすることになるので、データの整備が必要になります。
ETLやデータウェアハウスでデータ自体は統合できるのですが、そのデータが「なぜ生まれて、どういう業務でどう使われているのか、どういう価値を出しているのか」といった「コンテキスト(文脈)」が分からないのです。異なる部門の人たちが作業するため、互いの業務に詳しくない人たちが協力せざるを得ず、理解が難しい状況が生まれます。
こうした理由から「メタデータ」が非常に重要になります。従来のメタデータがスキーマ構造や統計情報などの技術的側面に焦点を当てていたのに対し、我々が対象にしているのは「ビジネスメタデータ」と呼ばれる領域です。これはデータの業務的な文脈や意味を管理するものです。
技術的なメタデータであれば、データベースに接続して定義情報を取得すれば良いのですが、ビジネスメタデータは人の頭の中にある「暗黙知」なのです。「営業3部の野原課長が知っています」というような情報が、組織の成長を阻害するのです。この暗黙知をどう引き出して記録し、組織内でコミュニケーションするかが大きな課題です。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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