生成AI時代に“技術特化人材”は不要? 事業とITをつなぐ「CoE型人材」を育成する3のメソッド
第9回:AIに代替できないIT部門になるために
多くの日本企業、特に規模の大きな日本の伝統的企業「JTC(Japanese Traditional Company)」では、デジタルや生成AIの活用に関する議論が進む一方で、実際の変革が思うように進んでいないケースが少なくありません。その原因の多くは技術そのものではなく、マインドセット、組織体制、開発プロセス、人材といった「非技術的な構造」にあります。つまり、変革を支える“人と組織の仕組み”が整っていないのです。そこで、連載「住友生命 岸和良の“JTC型DX”指南書」では、筆者が住友生命保険での実務経験をもとに、JTCの変革に必要な視点を解説しています。第9回となる今回は、生成AI時代に求められる「CoE型人材(センターオブエクセレンス人材)」の育成をテーマに、その実践の方向性を考えます。
生成AI時代に求められる人材育成の在り方
生成AIの進化は、企業における「IT人材の在り方」を根本から変えようとしています。これまでのように「システム開発ができる人」「コーディングができる人」「データ分析ができる人」「AIを使える人」といった、特定分野に特化した「機能特化人材」だけでは不十分です。顧客のニーズを的確に把握し、それを事業構想や商品企画、サービス設計に結びつけ、最終的に実装まで導ける総合的なスキルを備えた「CoE型人材」が求められています。
ここでいうCoE型人材とは、センターオブエクセレンス(Center of Excellence:CoE)の理念を体現する人材です。CoEとは、企業における技術・データ・プロセス・人材育成の知見を集約し、全社的に展開する仕組みのこと。各部門に分散した知識やスキルを再利用可能な形に整理し、他部門が学びやすい仕組みを提供する役割を担います。
このようにCoE型人材とは、単なる専門家ではなく「ナレッジを共有し、現場で再現可能な形に翻訳できる人材」を指します。生成AIの活用においては、新たな技術進化がもたらす変革を、単なるツール導入で終わらせず、全社的な価値創出へとつなげる推進者といえます。
「CoE型人材」が活躍する時代へ
多くの日本企業、特にJTCでは、顧客分析・事業企画・システム開発が縦割り型の組織編成によって進められています。マーケティング部門はデータを読み、事業部門は企画を練り、情報システム部門がシステム開発を担う。この役割分担は、変化の激しい現代においてしばしば壁となっています。
スマートフォンアプリをはじめとするデジタルサービスを見れば分かるように、顧客の反応がリアルタイムで変化する時代には、スピードと連携が命です。縦割り型組織のままでは柔軟で迅速な部門間連携が取れず、結果として顧客価値の最大化が難しくなっています。
しかし生成AIの登場により、このリスクを解消できる可能性が高まっているのです。生成AIは、要件定義から試作、検証までの工数を短縮し、試行を繰り返しながら改善する開発スタイルを可能にします。企業は、このチャンスを活かして顧客を理解し、課題を発見し、データを分析し、AIを活用して短期間で解決策を形にできる人材の育成を目指すべきです。
筆者はこのような役割と能力を持つ人材を、分業体制の中で一部のスキルに依存する“機能特化人材”と対比して“CoE型人材”と呼んでおり、こうした人材の育成方法を研究して実践で試しています。この人材は、特定の領域に閉じた専門家ではなく、部門や役職、職種の境界を越え、全体を見渡しながら成果をデザインできる人材です。
生成AI時代においては、システム開発や分析力といった生成AIに取って代わられてしまうようなテクニカルスキルよりも、「問いを立てる力」「他者と共に考える力」「構想を形にしていく推進力」が重要になります。CoE型人材は、こうした多面的な力をバランスよく備えた“組織の触媒”のような存在。
筆者はこれまで、多くのJTC企業の現場で、こうした役割の人材を見てきました。CoE型人材に共通しているのは、最初から高いスキルをもっていたわけではなく、顧客を理解しようとする姿勢や、他部署と協働して課題を解こうとする姿勢を通じて成長していく点です。
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岸 和良(キシ カズヨシ)
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長住友生命に入社後、生命保険事業に従事しながらオープンイノベーションの一環として週末に教育研究、プロボノ活動、執筆、講演、趣味の野菜作りを行う。2016年から...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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