世界で着実にIPv6の導入は進みつつあります。最終回の今回は、マニラで開催された「APRICOT2009」での議論やIPv4アドレスの在庫枯渇の現状に触れつつ、IPv6と今後のインターネットについて解説します。
APRICOT2009報告
去る2009年2月、フィリピンの首都マニラで「APRICOT2009」が開催されました。APRICOTはアジア太平洋地域でのインターネットに関わる人びとのミーティングで、毎年この時期に開催されています。
大抵の場合、会期の前半は経路制御やVoIP網構築、セキュリティ等、様々な技術講習会が行われ、後半は最先端の技術に関する情報交換やポリシーの議論が行われます。
今回もIPv4アドレスの在庫枯渇、そしてIPv6は大きなトピックで、プログラムの半分以上は何らかIPv6に関係する内容でした。
各発表者からIPv4アドレスの在庫枯渇時のネットワークサービスや、IPv6の導入について報告がありました。私もIIJにおけるIPv6導入について、その歴史や現状、課題などを報告してきました。
会議の合間にはコーヒー休憩もあり、そこでも他の参加者といろいろお話します。壇上では話せない様々な工夫や苦労が聞けるのもこういった顔を会わせての会議の魅力です。
会場に用意されているネットワークでは当然IPv6も使えるので、中国のネットワーク管理者の人がIPv6でのみ提供しているサービスなども見せてくれました。
時にはこれからIPv6の導入を行いたいという組織から相談を受けることもあります。今回もマニラで大学ネットワークを管理している人から相談を受け、今でもメールのやりとりが続いています。幸いなことに、彼女らの大学ではIPv6導入のプロジェクトが正式に承認され、今はネットワーク設計や導入に向けたスケジュールを行っている所だそうです。
APRICOT会期中にはAPNICのミーティングも開催されます。APNICはアジア太平洋地域でIPアドレスなどの割り振りを行っている組織です。
どのように割り振りを行うかといったポリシーはミーティングで議論され、参加者の合意を得てから実装されています。
今回の大きな議題はIPv4アドレスの移転です。これまで組織間でのIPアドレスの移転は認められていませんでした。しかし今後IPv4アドレスの在庫枯渇が見込まれるので、IPv4アドレスが余っている組織から必要としている組織に直接移転が行えるようにしようという提案です。
様々な弊害は予想されますが、それでもまだIPv4アドレスは必要であり、何らか確保できる手段を用意しておきたいという意見は多く、このポリシーは一応の合意を得ました。
しかし移転の条件についてまだ異論があるので、実際に移転が行えるようになるまでは、まだ時間がかかると予想しています。

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松崎吉伸(まつざき よしのぶ)
1998年にIIJ(株式会社インターネットイニシアティブ) に入社。2000年から同社バックボーン運用に参加し、設計から運用までを手掛ける。2007年にはAPNIC IPv6 Technical Sig Chairに就任。より良いインターネットを目指してあれこれ楽しそうな事を見つけながら頑張っている...
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