サイバーレジリエンスとは何か
レジリエンスとは元々心理学の用語で、困難な環境下において、うまく適応する過程や能力、あるいは適応の結果のことを指す言葉でした。これが転じて、変化の激しいビジネス環境において柔軟性をもって生き抜く力、というような使われ方をしています。変化が激しいといえば、サイバーセキュリティにおいても言えることです。第4回でもご紹介した通り、脅威は外部環境(攻撃グループ・攻撃者・新規脆弱性)と内部環境(働き方の変化・社内システム構成の変化)双方の日々の変化により多様化しているので、スナップショットでの対策では脅威の変化についていけません。サイバーレジリエンスという言葉は、そのような“困難な状況下や予期せぬ変化に対してその時々の状況を判断し、柔軟に対応ができる能力”という説明がピッタリくるかと思います。(*1)
サイバーセキュリティというと、攻撃されるかどうかも分からないことに対して費用をかけて対策しなければならないため、保険の意味合いで最低限やっておきたいと考えられる方もいらっしゃると思います。そのため“セキュリティは効果測定ができない”とか“セキュリティはお金を食うばかりでキリがない”という声も聞かれます。しかし、今やインターネットやデジタルテクノロジーを利用してビジネスを実施するのが当たり前となっていて、それらは経営戦略に組み込まれているものになります。そのため、その1つの要素としてサイバーセキュリティは実施すべきであるという認識を持っていただく必要があります。
サイバーセキュリティとBCP
では、なぜサイバーセキュリティがネガティブに捉えられるかを考察しましょう。たとえば、BCPという考えがあります。環境変化に対して事業を継続するための具体的な方針や手順を示した計画なのですが、基本的にBCPの考え方は“予測した変化に対する計画”がベースとなっています。自社で予測するのですから、ある意味自社の事情やペースで決めることができると言えます。
たとえば、製造業のケースを考えてみると、BCPの計画には工場での事故が発生した場合の計画も盛り込まれていると思います。過去何年にもわたり工場を稼働させてきていますから、経験上工場でどのような事故が発生しそうか(あるいは過去に発生したか)、もしくは同業他社の事例を参考にすることができることから、事故発生時の対応マニュアルは整備され、対応のための体制も組まれており、訓練も行われていることでしょう。
また、そもそも事故を起こさないための作業員が遵守すべき規程も整備され、実行されています。当然それらは人命を優先に考えて計画されているわけですが、一方で発生した事故の規模によって企業活動に与えるインパクトとリカバリー計画も策定されているわけです。また、ある程度想定可能な事象で、発生確率もそれほど高くなく、比較的自社のペースで物事を計画し進めていけるこのようなケースの実行段階においてはPDCAが最適と判断されます。長年製造主体でやってきた日本の企業にはBCPやPDCAを比較的取り入れやすい土壌が整っているということは理解できる点です。