バイモーダル戦略で「EXとCXのためのDX」を推進
「セゾンカード」の運営会社として知られるクレディセゾンだが、他にも不動産ファイナンスなど幅広いビジネスを展開している。クレジットカードのビジネスは引き続き成長しているが、事業利益では既に全体の3割程度で、小野氏は「“ノンバンク”として多角的なビジネスを展開する会社です」と言う。
小野氏は大学卒業後、後にOracleに買収されるSun Microsystemsに入社する。シリコンバレーでの勤務などを経て独立し、2000年10月にアプレッソを創業し代表取締役に就任し、データ連携ソフトウェア「DataSpider」の開発、販売を行った。2013年にアプレッソがセゾン情報システムズに吸収され、そのタイミングでセゾン情報システムズに入社し、2015年6月には同社取締役CTOに就任。2016年4月には常務取締役CTO兼テクノベーションセンター長となり、DataSpiderとHULFTを組み合わせたソリューションや、HULFTのクラウド対応などを積極的に展開し、同社を新しいデジタル技術に強い会社に生まれ変わらせた。それらの実績からクレディセゾンのDX牽引を求められ、2019年3月より同社に入社しCTOを務めている。
外部からCTOとして入ってDXを進めるとなれば、最初の四半期くらいの時間を使いグランドデザインを描き、以降でそれを実践するのがよくあるアプローチだろう。とはいえ社内メンバーのデジタルリテラシーや取引先との電子的なやり取りがどれくらい進んでいるかといったことは分からない。小野氏は「机上の空論で『クレディセゾンのDXはこれが最適解』とグランドデザインを描き進めても、地に足が着いていないものになるでしょう」と言う。
そのため小野氏が選んだアプローチは、まず動いてみることだった。計画の前に軽く“Do”をし、軽く“Check”して“Act”する。そのサイクルをどんどん回し「もし駄目なら止め、ちょっと変えて行けそうなら変える。行けそうだと確証が得られたら最後に“Plan”する。つまりPDCAではなく“DCAP”で動くことにしました」と話す。
事業部のやり取りからIT部門の仕事のやり方まで、様々なことを試して見えてくるものがあった。そして「クレディセゾンにおけるDXの最適解だと見定めたのは、入社してから2年半後のことでした。それが2021年9月に発表したCSDXです」と小野氏。
CSDXでは金融機関に求められる安定性重視の「モード1」と、スピードと柔軟性が求められる「モード2」を共存させるバイモーダル戦略を基礎としている。そのために先端技術を最大限に活かしつつ、既存技術の良さを認め両者を融合させる。ITやデジタル人材の構成もこのバイモーダル戦略に基づき、エンタープライズIT系の人材とスタートアップ経験者やWeb系企業の人材を集めてチーム編成しているという。
「私は小学4年生からプログラミングをやっていて、読み書き・そろばん・プログラミングは当たり前という感じでした。そういう人からすると、ITなんて当たり前で、すぐにそれを使いたがる。今のDXではデジタル技術が前面に出過ぎています。そうならないようにするためにも、カスタマーエクスペリエンス(CX)とエンプロイーエクスペリエンス(EX)の一方、あるいは双方に寄与できないDXの取り組みは、すべてデジタル技術の乱用に過ぎないと考えています」と小野氏。DXの目的としてCXの向上は多くの企業が謳っているが、EXで社員の仕事体験が変わるところにポイントを置いているのがCSDXの特長でもある。「良いCXのためにも、良いEXが大事です」と強調した。