“元店長”の異色のキャリア 現場で培ったマネジメントの本質
酒井:柴田さんは、情シスとしては異色のキャリアを歩まれています。大学では数学専攻。新卒で情シスに配属され、その後店長を経験し、また情シスに戻ってこられたそうですが、この経験は現在の仕事にどう活かされていますか?
柴田:話すと長くなりますが、いろいろと活かされています(笑)。大学時代は、哲学のように証明をこねくり回していました。1+1が2になることを証明したり、平行線がいつまでもぶつからないことは本当なのかと考えたり、そういう思考プロセスを学んだことが今に活きていると思います。そして、証明に明け暮れたおかげで、「∵(なんとならば)」という説明の仕方が染み付いてしまい、その方が話しやすいという性質があります(笑)。
酒井:ラノベの主人公のようで、カッコいいです(笑)
柴田:その後、新卒でJTBに入社し、情報システム部に配属されました。当時は大型汎用機で、プログラムを機械語に翻訳してから実行するという時代でした。その後、人事異動で店長になりました。
店長時代の最大の学びは、現場の声を直接聞けたことです。JTBの現場は、お客さま満足度向上のために日々懸命に努力しています。ただ、私が店長をしていた店舗は、エリアで1、2を争う忙しさでした。お客さまの対応以外に本社からは様々な教育プログラムや内部統制チェック、営業施策などが降りてくるので、お客さまのために頑張りたい気持ちはあるものの、スタッフたちはかなり疲弊していましたね。
そこで、施策の取捨選択をしていきました。また、なぜそれが必要なのかを説明し、実現するプロセスを一緒に考えていきました。こうしたアプローチを続けていると、スタッフは徐々にストレスなく仕事ができるようになっていきました。そして、もともと優秀なメンバーが本来のパフォーマンスを発揮できるようになったわけですから、社内からも評価されるようになったんです。この好循環が回り始めると、その店舗全体が前向きになり、いろんなことがうまくいくようになりました。
酒井:それはきっとマネジメントの本質ですよね。一つの店舗が、まるで経営の縮図のようです。
柴田:そうですね。今もこの学びが活きています。店長になる前は、店舗のことはシステムも業務プロセスも手探りで議論していました。でも今はそれこそ、「こうです。なんとならば」と自分の言葉で説明できるようになりました。
そして、単に使いやすいUIを考えるだけでなく、新システムの意義をどう伝えるかまで考えるようになりました。システムだけでなく、人の行動を変えることまで視野に入れないと、本当の変革は成し得ないと実感しました。店長を経験したからこそ、この視点が持てたと思っています。