データベース構造に「縦持ち方式」採用で、移行の難易度増
酒井真弓(以下、酒井):JTBでは大規模な基幹システム刷新プロジェクトが進行しているそうですね。
柴田裕嘉(以下、柴田):はい。私たちは「基幹システムトランスフォーメーション」と呼んでいますが、単なるプロジェクトではなく、より大きな変革を目指すプログラムとして位置付けています。2030年に向けて大きく3つのフェーズに分けて進めています。
フェーズ1は、インフラのパブリッククラウド化です。これは年内に完了予定で、その後1~2年かけて自社管轄データセンターを整理します。フェーズ2では、国内のバックエンドシステムのマイクロサービス化を行います。これは主に公共交通機関や宿泊施設などとの連携システムが対象です。フェーズ3で、旅行商品の仕入れ、商品開発、販売管理など、事業の核となるシステムの再構築に取り組みます。現在は、フェーズ1の最終段階とフェーズ2の一部を同時進行しています。
酒井:具体的には、どのようなプロジェクトが動いているのでしょうか?
柴田:現時点の一例を挙げると、顧客情報の管理方法の刷新です。実は、このシステムがリリース直前で、あともう一息というところまできています(2024年9月取材時点)。
従来は、お客さまの会員情報と旅程などを別々のシステムで管理していました。新システムでは、これらを統合し、一元管理できるようにします。これにより、お客さま一人ひとりのニーズに合わせた、よりきめ細やかなサービスが提供できるようになります。また、飛行機などの時間が変更になると、システムから自動的に通知が来て、お客さまへの連絡もスムーズになります。
酒井:ということは、他社とのシステム連携が肝ですね。
柴田:そのとおりです。旅行業は多くの事業パートナーとの連携が不可欠です。航空会社、鉄道、宿泊施設など、様々なサービスをリアルタイムで予約したり、事前に確保したりする必要があります。この複雑な連携が開発を難しくしている一因です。今でもかなり自動化できていますが、新システムではこの連携をよりスムーズにし、大幅な業務効率化を目指しています。
酒井:今のところ進捗は順調でしょうか?
柴田:てんやわんやです(笑)。締め切りが迫って、当初のバッファもほぼなくなり、システムテスト、サイクルテスト、ユーザー受け入れテストを同時進行中です。さらに、移行プログラムの調整や、現場への使い方レクチャーなども並行して進めています。
最大の課題は、このプロジェクトが単純なシステムの置き換えではないということです。従来のシステムでは、ホテル予約、飛行機予約、鉄道予約などを別々のエンティティで管理し、新しいサービスが増えるたびに、新たなエンティティを作る必要がありました。一方、新しいシステムでは、データベースの構造を根本から変えて「縦持ち方式」を採用。新サービスが増えても、エンティティを建て増すことなく、タイプを追加するだけで対応できるようにしました。これにより、お客さまの情報や旅程を横串で管理できるようになり、お客さま対応の観点からも、データ管理の観点からも、かなり効率的になる予定です。
ただ、この変更により、データ移行が非常に複雑になってしまいました。データの持ち方が変わったことで整合性チェックが難しくなり、データの関係性を一つ一つ確認する必要が出てきました。これが発覚したのは、2023年の年末頃、テストケースを作成するという段階。「新旧システムで、予約データが同じように入っていかない」と気づいて……。
酒井:怖いですね。
柴田:調べてみると、私たちとパートナーとの間で、データマッピングの認識にズレがあったことが分かりました。ここは業務の機微に関わることなので、パートナーの皆さんが察するのは難しく、私たちがもっと丁寧に説明すべきと反省しています。そこで、改めて総チェックすることに。今振り返ると、この規模のデータ移行に関する知見が不足していたと感じています。今後は同じような問題を繰り返さないよう、データ移行プロセスの標準化について考えているところです。