2025年からの生成AI活用の拡大進化──「現場底上げ」を超えた可能性
生成AIはここ数年で急速に進化し、多くの企業で業務効率化や生産性向上に寄与してきた。昨年まではRAG(Retrieval-Augmented Generation)など、企業独自データ基盤を活用した生成AIの応用が注目されていたが、2025年以降はさらに新たな方向性が浮かび上がりつつある。その一つが「自律性」である。目標に基づいて独自に行動し意思決定を行う「AIエージェント」の登場は、ビジネスプロセスや経営戦略における大きな転換点となる可能性を秘めている。
また、これまで生成AI活用の中心だった業務現場での底上げや「生産性向上」の枠組みを超え、その適用範囲や領域が広がりつつある点も注目すべきだ。アクセンチュアの12月の会見では、生成AIをデジタルツインのコンセプトで捉え直し、「経営意思決定支援への高度化」や「システム分野への深化」に活用する方法が提示された。「デジタルツイン・エンタープライズ」という概念によって従業員自身やプロジェクト全体をデジタルツイン化し、それらを基盤としたシステム運用や最適化が進む。この技術は単なる効率化だけでなく、新しい価値創出にも寄与すると期待されている。
こうした新たな潮流は、生成AIがもはや単なる業務支援ツールではなく、企業全体の変革を支える中核的存在へと進化していることを示している。特にアクセンチュアは、自社開発したツール群とその活用事例を通じて、この変革を先導している。
保科氏は冒頭で、ChatGPTの衝撃的な登場以降、多くの企業が生成AIを業務に取り入れ始めている現状について触れた。「マイクロソフト製品に搭載されたCopilotやAdobe Fireflyなど、言語系や画像系を問わずさまざまな生成AIツールが普及しており、それらを活用して生産性向上や業務効率化に取り組む企業も増えています」と述べる。
アクセンチュア自身もこうした一般的なツールだけでなく、自社専用の成AIツール群を社内外で活用している。具体的には、「社内コンシェルジュ」「データサイエンティスト」「提案書ドラフト自動生成」「会議議事録自動生成」などで、これらは自社専用のAIアプリストアを通じて、社員に提供されている。
これらは単なる業務効率化に留まらず、「これまでできなかったこと」を可能にする新たな価値創造につながっている。保科氏は「生成AIは、生産性向上だけでなく、新しい可能性を広げるツールでもあります」と強調する。
経営意思決定への生成AI導入──「人間CXO」と「AI CXO」の共存
保科氏はさらに、生成AIが経営レベルでどのように活用されるべきかについて詳しく説明した。「現場だけでなく経営層でも生成AIを活用することが求められている」と述べ、人間CXO(経営幹部)とAI CXO(人工知能による意思決定支援)の役割分担について解説した。
例えばCFO(最高財務責任者)の場合、高度な財務予測には膨大なデータ分析が必要となる。この点でAI CXOは優れた能力を発揮する。一方で、人間CXOには戦略的判断やリスク評価といった、人間ならではの直感や経験に基づく意思決定が期待されるという。
「人間CXOとAI CXOはそれぞれ異なる強みを持っています。たとえばCSO(最高戦略責任者)の場合、戦略オプションの提示ではAIが非常に有効です。人間では思いつかないような選択肢を提案できる一方で、それらからどれを選び、どんなリスクを取るかという最終判断は人間CSOに委ねられるべきです」(保科氏)。このように、人間とAIが補完し合うことで、新しい価値創造が可能になるという。
組織設計への応用──複数のAIが「議論」し「解」を導く
次に保科氏は、生成AIによる組織設計への応用について言及した。同社では、「あるべき組織構造」を提案するための生成AIツールを開発・運用している。このツールは企業内外から収集したデータや現在の組織構造、将来的な目標などをインプットとして受け取り、それに基づいて最適な組織モデルを提示する。
ユニークなのは、複数のAIエージェントに「議論」をさせる方法だ。このプロセスには複数の生成AIエージェントが関与し、それぞれ異なる視点から議論し合いながら結論を導き出す仕組みが採用されている。
「例えば『業務改革重視型』と『人材活用重視型』という2つのエージェントが議論し、その過程や結論は人間にも分かりやすい形で提示されます。この透明性こそが信頼性確保につながります」(保科氏)。
実際、このツールによって営業部門では従来3500人で行っていた業務が1800人でも回せるというシナリオが提示された。ただし、この効率化だけに留まらず、再配置された従業員には新しい成長戦略への貢献機会も提供されており、「効率化」と「成長」の両立が図られている。また、このプロセスでは教育プログラムや再訓練も並行して実施され、人材育成への投資も欠かさない。