
2025年2月25日、アルテアエンジニアリングは「金融業界の生成AI活用に関する調査」結果を発表した。この調査では、金融業界で働く役職者および一般社員665名を対象に、生成AIの活用実態を明らかにした。発表会では、調査結果の解説に続き、アルテアエンジニアリング株式会社 営業本部 金融法人担当セールスマネジャー 及川恵一朗氏と東京大学大学院工学系研究科 和泉潔教授による「金融機関は生成AIで成果を生み出せているのか~収益向上のJourney~」と題した対談が行われた。
調査によると、金融業界で働く人の53%が生成AIを「全く利用していない」と回答し、業界全体での活用が進んでいない実態が浮き彫りとなった。生成AIを業務に活用している場合でも、「トレーディング情報などのデータ分析」に活用している人はわずか8%にとどまり、金融業界ならではの高度な業務への活用ができていない状況が明らかになった。
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さらに、現在の生成AI活用目的に関して、一般社員の半数以上が「あまりイメージが湧いていない」と回答。役職者であっても業務効率化の先を見据えた「新規ビジネスモデルの開発」や「トレーディングおよびファンド運用業務での収益化」といった回答は1割以下にとどまっており、金融業界全体として活用目的が明確になっていない状況が見られた。
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和泉教授はこの結果について、「昨年11月にアメリカの市場調査会社が、生成AIは市場の期待のピークを過ぎて幻滅期に入ったと報告した。とりあえず試してみたものの、実際に現場で使えるかというとうまく活用できていないという状況がこの結果に表れており、肌感覚にすごく合っている」と分析した。
業務効率化に向けた取り組みと課題
金融業界が生成AIを効果的に活用するためには、現状の障壁を理解し克服することが重要だ。及川氏は主要な課題として、「データガバナンスとデータセキュリティをどう担保していくかが重要な課題で、スピード感も重要」と指摘した。
和泉教授は人材育成の重要性を強調し、「人材を育てるには、いろいろ試せる砂場のような場が必要である。それは1社だけではなく、複数のところで共通化したもので、スタートアップなど外部の人材をうまく活用していくことも非常に重要」と述べた。
生成AIの導入において、産学連携も有効な手段となる。データガバナンスの整備とスピード感を持った取り組みが各金融機関に求められる中、和泉教授は「金融機関個別でやると、どうしても目の前の業務だけの効率化の開発で終わってしまう。それを横串を刺すような形で、金融機関全体で必要なモデルは何か、技術は何かというところを産官学で研究開発するとすごくいい」と提言した。
金融業界の生成AIによる収益化への3段階
金融業界における生成AI活用の最終目標は、単なる業務効率化ではなく収益向上への貢献だ。和泉教授は生成AI活用の発展段階を「ホップ・ステップ・ジャンプ」の3段階で説明した。
「現在の金融業界での生成AI活用は『ホップ』の段階。金融以外でも使えるような一般的な生成AIをとりあえず使ってみる第一歩だ。次の『ステップ』はAIエージェントが金融業務のワークフローの中で、例えば債券市場や外国為替市場を調査する際に、どのデータを使い、どう数値指標化し、何と何を比較すべきかなどの手順を考えてくれるパートナーになることである」(和泉教授)
最終段階の「ジャンプ」については、「データにないところ、今後5年から10年の先に経済が変わったときに市場がどう影響を受けるかといった、ひらめきの部分である。論理もあり、裏付けもありながら、将来的な推測や様々なひらめきを取り入れられること」と展望を示した。
及川氏も金融業界特有の取り組みについて言及した。「トレーディング、特にファンドマネージャーが必要としているデータを生成AIで質問に対して返答してくれるという取り組みが進められている。そこで必要となるのがデータの正確性と精度をどう上げていくかという点だ。ナレッジグラフのテクノロジーをどう活用していくか、データの回答の因果関係をどう整理できるかが次の課題である」(及川氏)
金融業界における生成AI活用は現在、「ホップ」と「ステップ」の間にある。収益化への道筋をつけるためには、現場の業務フローを正確に把握し、AIエージェントにどのような役割を与えるかを明確にすることが重要だ。和泉教授は「現場で人間が行っている業務を正確に把握し、分解して考えることが大切である。その上で、それぞれの役割に応じてカスタマイズした複数のAIパートナーを配置することが世界的にも決め手になる」と強調した。