Oracleは欧州だけでなく、日本でも積極的な姿勢をみせる
ソブリンクラウドのニーズが先行する欧州において、Amazon Web Services(AWS)は2025年末までに「AWS European Sovereign Cloud」をリリースする計画を発表しており、ドイツで最初のソブリンクラウドのリージョンを立ち上げる予定だ。他にもドイツではT-SystemsとGoogleが提携し、Google Cloudを活用したソブリンクラウドを提供している。フランスでは、Microsoft Azureによるソブリンクラウドも提供されている状況だ。
またOracleは他社に先駆けて、2023年6月にEU Sovereign Cloudを開設、欧州全域の組織がデータプライバシーやデータ主権に関する要件をより細かく管理できるようにした。このサービスは完全にEU域内にあり、EUを拠点とするスタッフによりサポートされ、EUに設立された個別の法人により運営されている(ドイツのフランクフルト、スペインのマドリードにソブリンクラウドのリージョンが設けられている)。
なおEU Sovereign Cloudは、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)のパブリッククラウドリージョンと同じサービス、機能、価格、サポート、およびSLAを提供するもので、データレジデンシー、セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスのための包括的なポリシーとガバナンスを実装しているという。ソブリンクラウドについては、Oracleが他ベンダーよりも積極的に取り組んでいるようだ。
既に日本でも、ソブリンクラウドにかかわる具体的な取り組みが始まっている。野村総合研究所(NRI)は、自社の東京および大阪のデータセンターに「Oracle Alloy」を導入し、サービス基盤を構築。2024年2月に東京、同年12月に大阪で運用を開始し、災害復旧(DR)対策を強化することで、ソブリンクラウドの要求にも応えられるようにしていく。
NTTデータもソブリンクラウド市場への参入を発表している他、日立やNECはソブリンクラウドの情報を発信するWebサイトを作成しているものの、まだ具体的な施策を発表するには至っていない。とはいえ国内ベンダーの多くがOracle Alloyを活用し、ソブリンクラウド・サービスを構築しようとしている。
富士通は2025年4月から「Fujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloy」の提供を開始する。同社は2024年4月にOracle Alloyの採用を明らかにしており、以降150社以上から引き合いがあるという。また提供開始前から既に国のインフラを支える組織から初受注もあったと、2024年2月13日に開催された「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2025」の基調講演で富士通の古賀一司氏が明らかにした。

Oracle Alloyを利用したソブリンクラウドの提供において富士通は、Oracle Japan Operation Centerと協議して「ソフトウェアやパッチのアップデートをどう適用するのかといった細かい点も含め、ソブリンクラウドの実現に向けて急ピッチで準備を進めています」と古賀氏は言及している。
今はまだデータの秘匿性が必要な組織のシステム、クラウド化できていないミッションクリティカルシステムについて、“安全な移行先”としてのソブリンクラウドに関心がもたれている状況だ。他にもパブリッククラウドに移行後のトラブル、たとえば事前に通知されないバージョンアップで業務が停止し、甚大な影響が出たなどの理由からソブリンクラウドへの移行を検討している企業もいるという。
つまり富士通のソブリンクラウドは、データ主権などを目的とするものだけでなく、ミッションクリティカルシステムの移行先としてのニーズが高い状況だ。そのために同社ではミッションクリティカル・トランスフォーメーション・サービスを2025年3月から新たに提供する。ここにはミッションクリティカルシステムを支える、ITインフラを最適化するためのコンサルティングサービスも含まれるという。「ミッションクリティカルシステムのクラウド移行を検討する際には、これまでの責任を“完全に分解した”考え方ではうまくいきません。業務とアプリケーションを意識した上で、インフラを設計しなければなりません」と古賀氏。顧客業務がわかるSEとクラウドネイティブな知識をもったエンジニアが連携し、ミッションクリティカルシステムの設計を総合的にサポートしていく。
また、ミッションクリティカル・モダナイゼーションサービスが用意されており、AIを用いてシステム移行の負担軽減にも取り組むという。さらにオンプレミスと同等のサポートを提供するための追加サービスも提供予定だ。