デジタル時代だからこそ「銀行は生きていける」と確信
常陽銀行のDXには「やりきる」姿勢が根ざしているといえる。
「当行では四半期ごとにIT投資案件のKPI達成状況をモニタリングし、半期ごとに経営報告を行っています。IT投資は導入して終わりではなく、導入時の目的に対してKPIを設定し、その達成状況を最後まで見守ります」
達成状況が思わしくない場合は業務所管部との議論を重ね、改善策を練り直す。極端な場合は撤退も選択肢に入れるという徹底ぶりだ。この「やりきる(=やりっぱなしにしない)」姿勢が組織文化として根付いている。
一方、丸岡氏が大切にしているのは「イシュードリブン」の発想だ。新技術に触れていると、どうしても「この技術をどう使おうか」という思考に陥りがちになる。しかしこれでは、手段が先に来てしまい、本質的な経営課題と離れてしまったり、効果の小さな取り組みに貴重な時間を浪費してしまうことになりかねない。こうした罠を避けるため、常に経営計画や業務計画に立ち返り、課題の優先順位を確認するようにしているという。
壁にぶつかったときは(いや、ぶつかる前から)、他人の脳を使うことも大事にしている。
「一人でもがかないこと。どんな人でもすべて一人では解決はできません。他人の脳を使うためには自分が笑顔でオープンマインドであることが大事。行き詰まったら素直に『助けて』と言います」
壁が人間である場合は「壁が生じるのは、多くの場合、関係者同士で思い描いている理想像の違いやそれぞれの立場における利害の不一致、認識している情報の非対称性が原因だと思っています。同じ銀行の同じ仲間同士で検討している以上、悪者はいません。それぞれの事情や思いを丁寧に確認し整理していけば、かなりのケースで解決の糸口が見えてきます」と丸岡氏。
この姿勢を貫く背景には、東日本大震災時の経験がある。当時、非対面マーケティングの改革プロジェクトを進めていたが、交通手段が断たれ電話会議に切り替えたところ、徐々に関係が悪化したという。非対面マーケティングの改革なのに、非対面になってから仲が悪くなるなんて、何という皮肉。この経験から丸岡氏は重要な気づきを得た。
「すべてネットでできる便利な世界もいいけれど、本当に相談したい時や思いが乗った会話をする時は、人対人の対話が必要。ならば、対面でのコミュニケーションを大事にしてきた従来型銀行はきっと生きていける──そう実感した瞬間でもありました」
テクノロジーの活用と人間らしさの両立。丸岡氏の描くDXは、そこに行き着く。
「途方に暮れるようなトラブルもいろいろ経験してきましたが、やっぱり最後は人ですね(笑)」