板倉弁護士が警鐘「今が意思反映の最後のチャンス」データ・AI関連の法改正で企業が押さえるべきポイント
「Data & AI Conference Trust2025」レポート Vol.2
「AI法」が成立、カギとなる“AI戦略本部”に企業がすべきアクション
2025年の通常国会で成立したAI法について、板倉氏は「推進法という名称ではあるが、特定の目的達成のための法律というよりは、限りなく基本法に近い性格だ」と分析する。具体的な義務規定や制裁規定はなく、AI基本計画の策定とAI戦略本部の設置が主な内容だ。
法制定の過程では参考人質疑なども行われたが、特に大きな問題が指摘されることもなく、比較的スムーズに成立したという。この「穏当さ」が、結果として日本に有利な状況を生み出していると同氏は語る。
ここで重要なのは、法整備にともない新設されるAI戦略本部の権限だ。本部長は内閣総理大臣、構成員は全閣僚という強力な体制で、関係行政機関などに対する勧告権を持つ。AI基本計画では、政府が実施すべき施策の基本方針が定められ、これに基づいて具体的な予算配分や政策実施が行われる。
罰則規定はなく、行政処分もできないが、政策の基本的な方向性を決める重要な枠組みとなる。政策要望がある企業にとって、AI戦略本部への働きかけが重要となる理由がここにある。

国際情報を比較すると、「日本は割と良いポジションにある」
2025年6月時点の国際的な規制動向を見ると、各国の法制度整備には温度差が生じている。米国では、トランプ政権の規制緩和路線により連邦プライバシー法案の成立は当面困難で、州のAI規制を禁じる条項を含む税制改正法案も議論となった(のちに削除された)。一方、欧州はAI法(AI Act)制定後に規制の見直しを検討する動きが出ている。
こうした状況について、板倉氏は「日本は割と良いポジションにある」と述べる。EUが厳しすぎる規制で課題を抱え、米国が規制に消極的な中、日本は適度なバランスを取った制度を構築する機会があるという見方だ。
ただし、過去の法改正では想定外の影響が生じた例もある。令和2年に日本で行われた制度の改正では、名簿業者対策として導入された規制が、一般企業のビジネスモデルにも影響を与える結果となった。そういった事態を防ぐためにも、事業者からの具体的な情報提供が重要だ。
事業者に求められているのは、秘密計算でどのような計算を行いたいのか、どの情報なら公表可能なのかといった具体的なニーズを整理し、業界団体を通じて個人情報保護委員会に情報提供することだ。特に秘密計算では、複数社が専門プロバイダーに委託するビジネスモデルが想定されるため、業界での事前検討が重要とされる。
板倉氏は今回の法改正について、法制度を「与えられるもの」ではなく「作るもの」として捉える重要性を指摘する。最後には日本発の技術と法制度を組み合わせた海外展開の可能性にも言及しながら、制度設計段階での事業者の関与が、今後のデータ・AI活用環境に影響を与えるとの見解を示し講演を締めくくった。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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