「能動的サイバー防御法」への提言に携わる別所直哉氏が、今後の法改善に向けた課題と議論のポイントを語る
「サイバー防衛シンポジウム熱海 2025」レポート Vol.2
2025年5月、国の重要インフラなどのサイバー攻撃被害を防ぐための「能動的サイバー防御」の導入に関する2つの法案(以下、「能動的サイバー防御法」と総称)が成立・公布された。これを契機に多くの関連施策が施行されていくだろう。しかし、法の成立はあくまでも“出発点”に過ぎないと紀尾井町戦略研究所の別所直哉氏は語る。別所氏は、同法の成立に向けて法制面などから提言を行ってきた人物の一人だ。2025年6月22日に行われた「サイバー防衛シンポジウム熱海 2025」での同氏の講演内容をレポートする。
国家・国民を守るための「能動的サイバー防御法」が成立
サイバー攻撃が年々、巧妙化および激化している昨今、国家の安全保障を脅かす重大な侵害が起きるケースも増加している。もし国や自治体、社会の基幹インフラ、様々な機密情報を扱う事業者などのセキュリティが侵害されれば、国家や国民の安全が脅かされ、国民生活や経済活動に多大な影響が及ぶかもしれない。
そこで、それらの重要なシステムに対する攻撃を防ぐ目的で新たに制定されたのが、「能動的サイバー防御法」だ。
(内閣官房 サイバー安全保障体制整備準備室『サイバー対処能力強化法 及び同整備法について』より)
同法は、大きく以下2つの法律から成る。
- 重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律(サイバー対処能力強化法/以下、強化法)
- 重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(サイバー対処能力強化法整備法/以下、整備法)
このうち強化法では、能動的サイバー防御法の目的と基本方針、能動的サイバー防御における「官民連携の強化」「通信情報の利用」などについて定め、整備法では、サイバー攻撃を防止するために警察、防衛省・自衛隊が行う措置(相手側システムへの「アクセスと無害化」)、能動的サイバー防御を推進するための内閣府を中心とする「体制整備」などについて定めている。
ウクライナ危機も受けて大きく高まる人々の国防意識
別所直哉氏も、能動的サイバー防御法の制定に民間側で尽力してきた一人だ。同氏はこれまで、ヤフー(現LINEヤフー)で法務・政策企画部門の責任者を務め、各種セキュリティインシデントに責任者として対応してきたほか、インターネット関連の法律の制定などに民間側から関わってきた。現在は、紀尾井町戦略研究所の代表として政策コンサルティングやシンクタンクの活動を行う傍ら、ソフトウェア協会で政策委員会の名誉委員長なども務めている。
別所直哉氏
「能動的サイバー防御法成立の背景には、国防に対する国民の意識の変化があるのではないか」と別所氏は指摘する。紀尾井町戦略研究所では、2022年から2025年まで複数回にわたり人々の防衛に関する意識調査を行ってきたが、その結果からも国防意識の変化がうかがえるという。
調査は、全国の18歳以上の男女1,000人に対し、インターネット上でクラウドソーシングによるアンケートで実施された。第1回の調査は2022年11月に実施(※1)されたが、ロシアによるウクライナへの本格的な侵攻開始から約半年後のタイミングということもあり、「日本が戦争に巻き込まれることがあると思いますか」という質問に対して、60%以上が「数年~30年以内には巻き込まれると思う」と回答した。
紀尾井町戦略研究所『国防の意識と防衛力強化に関する意識調査(第1回)』(2022年11月実施)の回答結果
(同社公表資料より)
また、「自衛目的で敵のミサイル発射基地などを攻撃する『反撃能力(敵基地攻撃能力)』を持つことに賛成か」という質問に対しては、65%近くが「賛成」と答えた。危機意識がなければこのような切迫感は生まれない。別所氏は、「諸外国の状況が国内にもひしひしと伝わり、こうした結果になったのでは」と推測する。
さらに、「日本の安全を守るには何が必要だと思いますか」(複数回答可)という質問に対しては、多くの回答者が「情報インテリジェンス能力」や「サイバー空間での防衛力の強化」を挙げている。
紀尾井町戦略研究所『国防の意識と防衛力強化に関する意識調査(第1回)』(2022年11月実施)の回答結果
(同社公表資料より)
※1:紀尾井町戦略研究所「日本の『反撃能力』保有賛成6割強」(2022年11月15日)を参照
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名須川 竜太(ナスカワ リュウタ)
編集者・ライター
編集プロダクションを経て、1997年にIDGジャパン入社。Java開発専門誌「月刊JavaWorld」の編集長を務めた後、2005年に「ITアーキテクト」を創刊。システム開発の上流工程やアーキテクチャ設計を担う技術者への情報提供に努める。2009年に「CIO Magazine」編集長に就...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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